Two with her

第1話「Two with her」


僕の彼女は、とても弱い人だった。


とても物静かで、いつも読書ばかりしている。


悪口を言えば、髪はボサボサだし、前髪で目は隠れて、表情も険しい。


お世辞にも可愛いなんて言えないし、清楚とか、そういう言葉も似つかわしくない。


そんな彼女に声をかけようと思う人なんて、いるはずもなかった。


だから、彼女はいつも一人だった。


彼女自身、その方が気楽なのかな? と、周りの人はそう認識し始め、クラスでは完全に浮いた存在。


そんな彼女だが、たった一人だけ、話しかける人がいる。


生駒山のオリエンテーリングで、一緒にペアを組んだ僕がその人だ。


一人でいる方が気楽で良い。


彼女がそう思っているなんて、そんなの、周りの人がでっち上げた都合のいい言い訳だ。


その証拠に・・・。



「よっ、また読書してるな」



僕が話しかけると、彼女はすぐに読んでいた本を閉じて、にこりと笑みをうかべる。


彼女の中身を知らない第三者の人からすれば、この表情に可愛げのかけらもないように思えるだろう。



だけど、僕は違う。



僕は彼女の可愛いところ、女の子としての一面を、たくさん知っている。


だから、その笑顔は僕にとって最高に可愛いと思える。


そして時は流れ、僕も彼女も大学に進学した。


高校の卒業式という、最高に最悪なタイミングで告白した僕だが、彼女も了承してくれたし、その上 同じ大学に通うので、これからも一緒に楽しく過ごせると思った。



「あ、ちょっといいですか?」



大学からの帰り道、彼女が手を引っ張り、僕の歩を止める。



「どうした?」



聞き返すと。



「大事な話があるの」



彼女からただならぬ気配を感じたので、振り返り、顔を伺う。


彼女の顔は、誰が見てもわかるほど、深刻そうな表情をしていた。


何か嫌な予感がした。


とりあえず、落ち着いて話ができるよう、近くのカフェに向かった。



「それで?」



テーブル席に、お互い正面向かって座ると、僕から話を切り出す。



「えっと、私のことなんだけど、その、話すかどうか、すごく迷って、それでも、君には聞いてほしいって思ったから」


「いいよ。聞く」


「うん。えっと、私ね、病気なの」



それを聞いた瞬間、全身の力が抜けるような、でも、電気が走ったような、不思議な感覚になった。


同時に、彼女も泣きそうになった表情で、ただ下に目線を向けて黙り込む。



「そうなんだ。もし良ければ、詳しく聞かせてくれる?」



僕はなるべく表情を崩さないように意識しながら、彼女に詳細を訪ねる。


そしたら、彼女は困り果てた態度になる。


そんな姿を見た僕は、話したくないことなのかな? と察し、



「別に、言いたくなければ言う必要はないよ」



そう言った。



「い、いえ、言います。きっと、君なら受け止めてくれるって、信じてるから」



そう言う彼女だが、その声は震えていた。


それだけじゃない。手も、ブルブルと震えてながら膝に乗せ、必死に抑えて誤魔化している。



「わ、私・・・死ぬの」



それから先、彼女は一言も喋らなかった。

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