Her end
第1話「Her end」
「ちょっと相談があるんだけど・・・お父さん」
もうすぐ社会人になる一人娘から、深刻な表情で相談事を持ちかけてきた。
僕と娘であるイチゴとは、仲が悪いわけではないが、普段からよく話すような仲でもなかった。
だから、こうやって相談を持ちかけられるということは、イチゴが本気で何かに悩んでいるということ、だから「そこに座りな」と、そう言い、相談相手になることにした。
「んで、どうしたんだ?」
「私、彼氏に私の病気のこと とか話してなくて・・・その、どうしたらいいのかなぁって思ってさ」
「彼氏って、イチゴに恋人がいたんだな」
「ま、まぁ」
父親として、可愛い一人娘に恋人とは・・・色々複雑な心境だ。
「その・・・それを言ったら、彼から嫌われちゃいそうで」
「うーん、どうだろうねぇ」
正直、そんなことで嫌う程度の奴と付き合っているのなら、それは本当の愛と呼べるのだろうか。
イチゴもそろそろ成人するわけだし、高校生みたいに気軽に男女間の付き合いをするような年齢でもなかろう。
とはいえ、そこは人それぞれだよな。
「えっと、お父さんはお母さんの病気のこと、どう思った?」
お母さんのこと・・・なんか、イチゴが僕に相談してきた理由が分かった気がする。
同じ境遇、いや、それは少し違うな。
イチゴの彼氏の目線に立ったとき、どう思うか、それを聞きたいのだろう。
「そりゃショックだったけど、だからこそ、残りの時間を大切にしようと思ったよ。その結果、最高の思い出も、イチゴって言う宝物もできたからね」
イチゴは僕と彼女の二人の宝物だからね。
「ちょ、そんな恥ずかしいこと言わないでよ」
「あはは。イチゴも子供ができれば・・・あいや、申し訳ない」
これが地雷というやつか。
相手が娘とはいえ・・・いや、娘だからこそ、言葉には気をつけて慎重に話をしないとな。反省だ。
「別にいいよ。でも、私はどうすべきなのかな。参考までに、お父さんの話を聞かせてよ」
僕の話なぁ。
話すのはいいけど、その度彼女のことを思い出しては悲しく、そして苦しくなってしまう。
僕はそれが苦手だから。
「はぁ・・・」
一息ため息をつくと、僕は決心する。
「分かった」
今や彼女にそっくりなイチゴにも、僕の心境を伝えるべきだろう。
僕の考えとイチゴの考えが同じとは限らない。
だけど、イチゴとその彼氏、お互いが悔いのない形で最期を迎えてほしい。
もしかしたら、父親としてイチゴにできる最後のアドバイスかもしれないからな。
「お母さんの病気は、お父さんと同棲を始めてから気がついたんだ。最初は否定していたけど、問い詰めた結果、自身が病気ってことも、それ以外のことも全部話してくれたよ」
「そうだったんだ」
「あれ、この話してなかったっけ」
「初耳だけど・・・まぁ、少し参考にはならなかったな」
ならなかったかぁ。
それでも後悔だけはしてほしくないからね。
だから、最後に明確な言葉で伝える。
「悩んでいるなら話した方がいいと思うよ。だってそれが現実なんだから」
「やっぱそうだよね」
「そして、最後はイチゴが決めることだ。お父さんからはそれだけだ」
そう言い、僕はその場から立ち去った。
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