第3話「Her future」


「私は・・・私は、君のこと好きだから。その、わがままを言ってるかもしれないけど、最後まで君の隣にいたい・・・かな」



ちゃんと想いを伝えて、これでもう、私の悔いはないよ。


この後は、彼が決めることだ。


どんな返事でも、それが現実だって受け入れるつもりだ。


ほんの十秒ほど、なのに、この無言の時間が、何分、何時間と長く感じた。



「イチゴ、行くぞ」



そう言うと、彼は私の手をとりカフェを飛び出した。


どこに行くのかなんて分からない。


どんな返事をくれるのかなんて分からない。


とにかく、彼についていった。


駅に行き、電車に乗って、乗り換えもして、車窓がどんどん田舎の山奥に変化していって。


何時間にも感じるその旅。彼との会話はゼロだ。


やがて、彼は駅のホームへ、電車から降りる。


そこからバスに乗り換えて、ようやく目的地に着いたみたいだ。


カフェを出たのが午後の三時過ぎで、今はもう日が暮れてしまった時間。


時間だけ見れば、かなり遠いところに来てしまったみたいだが。



「どうだ、綺麗だろ」



数時間ぶりの彼の声。


そんな彼の言う通り、目の前に広がっている光景は素晴らしかった。



「目の前に見えるのが、神戸の街、大阪湾を挟んで和歌山まで観れるらしい」


「そ、そうなんだ」



人気のない山の中で、彼の声だけが私の耳の中に入ってくる。



「イチゴ、もう言うことはないのか?」


「言うこと・・・?」


「そうだ」



彼の言ってることがよくわからない。だが、意味深なことを聞いているのは理解した。


彼の言う「言うこと」とは。


考えても無駄だよね。



「もう、ないよ」



私はそう答えた。



「そうか。イチゴがどんな心配をしているのかは知らないが、俺はイチゴと別れるつもりはないし、嫌いになることもない。それだけはちゃんと言っておく」


「そ、そう?」


「当たり前だ。俺だって、その・・・イチゴのこと、好きなんだから」



その言葉は、私の彼に対する疑心暗鬼を取り除き、胸に締め付けていた何かを取り除いてくれた。


本当の幸せを、たった今 手に入れた感じがした。



「えへへ。嬉しいな」



それからの日常は気軽に送った。


彼の隣で、彼と一緒に思い出を作って、彼と一緒に日々を過ごした。


彼は私に優しくしてくれた。嬉しかった。


だから、私は彼に最期の手紙を綴って、そっと側から去ることにした。



「私は、幸せだったよ」

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