第3話「Her daughter」


イチゴの七五三も過ぎて、小学校も卒業。


反抗期は、親として辛いところもあったけど、何だかんだで乗り切って、高校生になって、そして・・・。



「お父さん、まだなの?」


「まぁ待て、そろそろだから」



十八になったイチゴは、大学への進学が決まった。それと同時に、母親のことも、全て打ち明かした。


まぁ十八にもなって・・・と言ったところだろうか、イチゴの方も、色々と察しはついていたようだ。


それと並行して、イチゴを産んだきっかけとか、そういうのも全て話した。


この話で、イチゴがどう傷つくかなど、想像もできなかった。


だけど、それが真実であるのだから、包み隠さず話した。


イチゴだってもう十八だ。


ある程度の現実くらい、受け入れてくれるだろうと信じて、ただひたすら、我を忘れながら語り続けた。



「そうなんだ。私・・・そんな風に生まれてきたんだ」


「ま、まぁ」


「なんだか・・・素敵ね」



そう言ったイチゴの目には、確実に涙が浮かんでいた。


きっと、泣くのを堪えていたのだろう。


どういう感情で泣いているのかは分からないが、そんなイチゴが、唯一口に出したことがある。



「お母さんのとこに、挨拶しに行きたい」



今日はその願いを叶えるべく、彼女のいるところに来ているのだ。


これまでも年に何回かは、僕一人で会いに来てはイチゴの成長報告などをしていたが、イチゴ本人を連れてくるのは初めてだ。


どこか緊張している僕の不安を他所に、イチゴは一直線に目的の場所を目指す。


石畳の通路を歩いて、その先の、狭い通路の一角にある、それ。



「これが、お母さん・・・だよ」


「これが・・・そうなんだ」



彼女は言葉を失っていた。


沈黙を保ちながら、正面に向かって立っているだけ。


そんな時間が数十秒続くと、イチゴは口を開き。



「あはは、何を話そうか、忘れちゃったよ」



涙を流しながらそう微笑むイチゴの姿は、すぐそこにいる、あの頃の彼女にそっくりだった。

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