Her daughter
第1話「Her daughter」
「ねぇ・・・イチゴのママって、いないの?」
時折してくるこの質問に、僕は頭を悩まされている。
無邪気な表情で言う愛娘だが、僕からしたら、痛い一言だ。
イチゴは今年で五歳の愛娘。
幼稚園に通い、色んな社会性を身につけている。
それは純粋に喜ばしいことなのだが、たまに質問してくる『母親のこと』については、どう答えるべきなのか、いつも頭を悩まされている。
僕は親として、嘘をつくべきなのか、真実を言うべきなのか。
でも、この歳で真実を知ってしまうのは、あまりにも残酷すぎるような・・・それに、幼稚園や、いずれ入学する小学校でいじめられたらどうしよう・・・そういう考えも、頭をよぎる。
だからと言って、嘘をつくのも胸が痛い。
だからこそ、返答に困るのだ。
「パパ?」
「イチゴが大きくなったら、きっと会えるよ」
胸が痛いのは僕の感情だけだ。
そう自分を言い聞かせて、僕はいつも、イチゴが『母親のこと』を質問してきたら、嘘をついてその場をしのいでいる。
「イチゴも、早くママに会いたいなぁ」
そんなことを無邪気な笑顔で言うイチゴの背後には、ただ佇む真実という名の影がある。
それを含めて見ている僕は、イチゴのことを見てられないほど残酷だ。
それでも、笑った顔は『彼女』にそっくりなところが、また憎めなくて。
だって、子供って夫婦の愛の結晶でしょ?
だから、僕は今でも忘れない。イチゴを産もうと決心したあの時のことを・・・。
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