第3話「Lonely girl」


「では、今度生駒山で行うオリエンテーリングのペア決めをします」



ロングホームルームの時間で行われる、オリエンテーリングのペア決め。


男女で別れ、お互い好きな人と二人ペアを組むらしい。


私と組む人は、さぞ可哀想なことだ。


と、思ったが、どうやらこのクラスの女子は奇数人数しかいないらしい。


恐らく・・・というか、ほぼ確実に余り者が出て、それが私になるのだが、その場合はどうなるのだろう。


できればどさくさに紛れて、ペアがいないままコトが進めばいいのだが・・・。



「じゃ、余った二人は悪いけど、そこだけ男女でペアってことで」



まぁ、ペアがいないまま終わるはずもないか・・・。


そして、私とペアになるのは男子のようだ。


そういえば、男子の人数も奇数だったような・・・。


何がともあれ、私のペアは男子になってしまった。


女子ともまともに会話ができないのに、異性の人なんて・・・どうしよう。


それから悩みに悩んだ末、私は休もうという結論に至った。


欠席するには、まず親の協力が必要だ。


ということで、その旨を親に相談したが、許しはもらえなかった。


親に反抗する度胸もない私は、当日に出席するほかなかった。

他の妥協策も考えてはみた。


仮病とか、わざと骨折などをするとか・・・。


でも、良策が思いつかないまま、オリエンテーリングの日になってしまった。


憂鬱なまま集合場所の※石切駅まで向かうと、クラスごとに担任から注意事項などが説明され、その後、早速ペアになってオリエンテーリングが始まった。


※石切駅(大阪府にある近鉄奈良線の駅)



「行こうか」



ペアの男子がそう言うので、私は咄嗟に頷いて、その人の歩幅に合わせて歩き出す。


彼の歩幅は非常に大きく、しかも速度も速い。


普段運動などしていない私は、彼の歩幅についていくだけで息が切れていった。


それでも必死に背中を追いかけていたが、とうとう限界が来てしまい・・・。



「ごめんなさい・・・待ってくだ・・・さい」



息を切らしながら、初めて同世代の人に声をかけた。


どういう反応をするか、ものすごく緊張した。


息が乱れているのに加えて、しっかりと伝わってくる鼓動。


今までの人生で、一番緊張した瞬間だと感じた。



「少し休憩するか」



私を睨みつけるかのようにそう言うと、彼は少し道からそれたとこにあるベンチへ向かい、そこで休憩することになった。


不機嫌そうではあるが、しっかり反応してくれたのは助かった。



「・・・あのさ」



少し無言が続いた後、彼の方から話しかけてきた。


驚きつつも、怯えという感情が勝っていると言ったところだろうか。


でも、何かしら返事をしなくては・・・と思い、高い声で「は、はい」と、咄嗟に返事をする。



「君は・・・なにか趣味とかあるの?」



どんな内容の言葉が飛んでくるのかと思えば、そんなことだった。


趣味というと、読書・・・だけど、この人がそんなつまらない返しを望んでいるわけがない。


だからと言って、最近の流行りとかもわからない。


ここは無難に・・・。



「趣味・・・ないです」


「趣味ないのか」



私の返答に、とりあえず無視されなくて良かったと安堵。


こんな会話一つだけど、誰かと話すって、とても素敵なことじゃない。


初めて知る感覚・・・楽しい。



「趣味ないのは辛いな・・・何かやりたいことはないのか?」



彼は、さらに質問してくる。



「やりたいこと・・・」


「ほら、絵が描きたいとか、ピアノが弾きたいとか」



私のやりたいことは、小学校の頃から変わっていない。



「私・・・やりたいこと、いま叶った」


「はい?」



私のやりたいこと、それは・・・。



「誰かと、会話がしたかった」


そのとき、私は自然と頬が緩んだ。


何年ぶりに笑ったのか、想像もできないほどに久しぶりの笑みだ。


私の考えていることはとても単純だ。


きっと、私は謎っ子で、他の誰かとは感性が違っているものだと思われているのだろう。


でも、私は誰かとおしゃべりがしたくて、友達が欲しくて・・・だけど、その勇気が無かっただけ。



「なら、僕が友達第一号だな」



だから、彼が言った言葉は、私の心にグッとくるものがあった。



「友達? いいの?」


「もちろんだ。気軽に話しかけていいぞ・・・って言っても、話しかけるのはまだ難易度高いよな。俺が話しかけにいくよ、それでいいだろ?」


「は、はい!」

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