第2話「Memories with her」
高校を卒業して、僕は大学に進学した。
色んなものが変化したが、中でも決定的に変化したことが一つだけある。
それは、僕の隣を歩いていた彼女。
高校時代、仲良くなってからは、学校でも登下校でも一緒に行動するようになっていた。
だから、僕の隣をずっと歩いていた。
だが、隣を歩いていたのは、あくまで学校がある日だけのこと。
学校があるから、一緒にいた。
仲良くなったとはいえ、所詮はその程度の関係だったということだ。
もちろん、プライベートでは会ったことがなかったので、卒業したらそれも終わってしまう・・・そう考えていた。
だが、僕の隣には、高校の時と変わらない人がいて、しかも、その人と手を繋いでいる。
「つ、付き合うんですか?」
「ダメかな」
「はい・・・いいですよ」
「いいって・・・OKってこと?」
「はい、付き合います。だから、これからよろしくお願いします」
卒業式の日の会話だ。
僕はいつしか、彼女に魅了されていた。
だから告白して、彼女はそれを了承してくれて・・・。
僕の隣にいる彼女は、今までの彼女とは違う。
友達ではなく、恋人だ。
その事実だけで、こんなにも嬉しいものなんだと、いつも実感していた。
彼女が僕の前だけに見せる笑顔も、可愛くて、微笑ましくて。
それからの四年という年月は、思い返せばあっという間だった。
あっという間とは言っても、それは体感の話。
僕は彼女とプライベートでも会うようになって、四年という月日で積み重ねた思い出は、無駄と言う言葉はふさわしくないが、とにかく無駄に多い。
大学卒業のとき。
思い出が多いからと言って、「じゃあこれでさよなら」っていうのも納得いかない。当たり前の話だ。
高校を卒業してからは、お互いが同じ大学へ進学することで、一緒の時間を作れた。
特に忙しかったわけでもなかったからな。
でも、大学を卒業したら、今度こそ一緒にはいられなくなる。
だから僕は、「君と一緒に住みたい」とお願いしたのだ。
そのときの彼女の表情は、顔を紅潮させて、ものすごく照れていた。
それと同時に、ものすごい嬉しそうな感じが、僕に伝わってきた。
十秒ほど無言が続いて、小さな声で「はい」と言ってくれた。
「ありがと」
そのとき、僕は初めて彼女の前で涙を流した。
それだけ嬉しかったということだろう。
「なんで泣いてるの?」
「いや、これは違くて」
必死に言い訳しながらも、これから彼女と同居できる事実に高揚していた。
それから数週間としないうちに、月六万円の小さめな部屋を借りた。
正直お金がなかったから、贅沢なことはできなかった。
でも、一緒に住んでいて、彼女の知らないことがいっぱい知れただけでも、僕は幸せだった。
そんな日々が続いたある日、僕が仕事から帰ってくると、彼女の姿がなかった。
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