第3話「Memories with her」


彼女は、とても弱い人だった。



だけど、僕の大事な人で、彼女のためならどんなことでもできると思っていた。



死だって厭わない。



だって僕は、彼女のことが好きなんだから。



でも、現実は非情を極めていた。



僕が仕事から家に帰ると、彼女の姿がなかった。



今の時刻は夜の九時頃、彼女は仕事をしていないので、この時間に家にいないのは不自然だ。



何か嫌な予感を感じながらも、ポケットの中にあるスマホを取り出す。



画面を確認すると、身に覚えのない番号からの不在着信が何件もあった。



恐る恐るその番号にかけてみる。



「もしもし」



出たのは女性だった。



どうやら、身に覚えのない電話番号の正体は、近所の総合病院からだった。



彼女に何かあったのだろうか。そんなことが脳裏をよぎった。



「残念ながら・・・」



電話越しに聞こえる女性の声は、衝撃的な知らせだった。



そして、僕は悟った。嫌な予感は、最悪な形で的中してしまったんだ・・・と。



取り乱しそうになった。記憶や気持ちが錯乱して、とにかく闇雲に、ただ病院へ急行した。



病院へ到着すると、看護師にとある病室へ案内された。



そこには、ベッドに横たわる彼女の姿があった。



「なんだよ・・・気持ちよさそうに寝てるじゃないか」



ため息が出そうなぐらい、彼女の表情は無であった。



そんな姿を眺めていると、背後に立つ看護師が、彼女の状態について話してくれた。



状態というのは、今 目の前に広がっているこの状態ではなく、これまでのことだ。



彼女は幼少期から身体が弱かったらしい。



中学生になると、その身体はさらにボロボロになり、明確なタイムリミットまで提示されてしまう有様。



成人してからというもの、彼女は見た目の数倍は危篤な状態だったという。



薬で誤魔化していたけれど、それも限界を迎えたんだとか。



そんな話を聞かされて思うこと、それは誰しもが、僕の立場に立ったときに思うことだろう。



「なんで、彼女は何も言ってくれなかったの?」



いつかその時が来るのなら、僕に教えてくれたっていいじゃないか。



僕だって、それを見据えて彼女に尽くしていたよ。



なのに・・・なのに・・・突然すぎるよ。



だけど、僕も彼女の気持ちが全くわからないわけでもない。



これは僕の憶測に過ぎないけど、彼女は望んでいたんだろう。



普通の恋をすることに。



だから僕は思う。これが正解だったと。彼女が選んだ、この選択肢が正解だったと。



「よっ、元気してるか?」



彼女の名前が刻まれた・・・いや、彼女の前に立って、僕は言う。



「僕と、結婚してくれませんか?」

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