Memories with her

第1話「Memories with her」


僕の恋人は、とても弱い人だった。



高校で知り合った彼女は、いつも一人でいて、誰とも話さず、誰とも関わろうともしなかった。



いつも読書をして休み時間を過ごし、部活などはせずに、授業が終わるとすぐに下校。



まるで、クラスのほとんどの人が、彼女の存在そのものを認知していないかのようだった。



それは僕も例外ではなかったが、彼女と会話をするきっかけがあった。



オリエンテーリングだ。



内容は、二人一組になって、生駒山のハイキングコースを歩くという単純なもの。



元々男女は区別されていたが、男女共に人数が奇数ということもあって、余り者として僕と彼女がペアになったのだ。



その時の僕は、最悪な人とペアになってしまったと思った。



僕だって、どうせ女子と組むなら、可愛くて陽気な人が良いに決まっている。



そう考えた時、彼女はどうだろうか。



ボサボサな黒髪ショートなのに、前髪だけは目が隠れるまで伸びている。



そこにプラスしてメガネ。



彼女には悪いが、言葉も出なかった。



次の日、憂鬱なまま集合場所の※石切駅まで向かうと、クラスごとに担任から注意事項などが説明され、その後、早速ペアになってオリエンテーリングが始まった。



※石切駅(大阪府にある近鉄奈良線の駅)



「行こうか」



そう声をかけると、彼女は何も言わず、ただ頷くだけ。



僕が歩き始めると、彼女は何も言わず、僕に歩幅を合わせてついてくる。



ため息が出そうな気持ちを堪えて、足早に無舗装のハイキングコースを歩いていく。



ただ黙っているだけなら、早めに終わらせよう・・・と、思ったのだが。



「ごめんなさい・・・待ってくだ・・・さい」



上り坂が体力を削ったのか、息を切らして、僕に初めて話しかけた内容がそれだった。



「少し休憩するか」



仕方ないので、少し道からそれたとこにあるベンチで休憩することにした。



ベンチに座ったまでは良いが、ただ黙っているのもなんだか・・・な。



「・・・あのさ」



どういう反応をされるか分からないが、とりあえず話しかけてみることに。



「は、はい」



驚きつつも、怯えた様子で返事をする。



とりあえず、無視されなくて良かったと安堵しつつ、ここからどんな話をすれば良いのか分からないという問題に直面した。



話しかけることに頭がいっぱいで、どんなことを話すのか、全く考えていなかったのが裏目に出たな。



とりあえずここは、しのぎということで。



「君は・・・なにか趣味とかあるの?」



とりあえず趣味を聞いてみました。



「趣味・・・ないです」



「趣味ないのか」



一概には言えないが、趣味がないって、悲しいな。



「趣味ないのは辛いな・・・何かやりたいことはないのか?」



「やりたいこと・・・」



「ほら、絵が描きたいとか、ピアノが弾きたいとか」



「私・・・やりたいこと、いま叶った」



「はい?」



「誰かと、会話がしたかった」



不覚にも、この子が可愛いと思ってしまった瞬間だった。



でも、彼女の考えていることはとても単純だった。



彼女は謎っ子で、他の誰かとは感性が違っているものだと思っていた。



でも、彼女だって誰かとおしゃべりがしたくて、友達が欲しくて・・・だけど、その勇気が無かっただけ。



「なら、僕が友達第一号だな」



「友達? いいの?」



「もちろんだ。気軽に話しかけていいぞ・・・って言っても、話しかけるのはまだ難易度高いよな。俺が話しかけにいくよ、それでいいだろ?」



「は、はい!」



思い返せば、恥ずかしいことを言ってしまったと思う。だけど、そのおかげで、それからの高校生活、僕は彼女と仲良くなれた。



仲良くなったことで、彼女がどういう人なのかもわかってきた。



何気ない会話をする日々が楽しくて、毎日学校に行くのが楽しみで・・・あっという間に時間は経っていった。



最初は可愛げもないただの女だと思っていたのに、あの日から彼女と関わり始めて、その印象は真逆に回転した。



だからこそ、僕はひそかに想っていた。



そして高校卒業の日、僕は彼女に対するその想いを打ち明けた、「好きです」とね。

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