第11話 数字は人を辞めていく証

 不磨七五三夫です。

 今、僕はステータス欄とにらめっこしています。

 中級に潜り、はや二年。そこそこの強さを得ることができたものの、正面切っての戦いができるモンスターが限られているのが現状です。

 これもチートスキル【怪力】があってこその物種。

 なくなれば、ただの盗賊……いや鍵開けが苦手な分、初級冒険者よりひどいことになるかもしれない。いくら研鑽を重ね、経験を積んだところで、どうやら現地の人と転移者はステータスに差が生まれやすいことは、調べて分かったことだった。

 それを補うためのチートスキル、ということなのだろう。

 つまるところ、クソザコナメクジに毛が生えたのが今の僕というわけだ。


 そういえば。


 ステータス欄の【ちから】の数字が28となっている。

 これ、怪力の補正抜きでこの数字。

 いや怖いな冒険者。

 この前リンゴにヒビ入れることができたよ……道理で冒険者が尊敬と同時に畏怖の目で見られてしまうわけだ。

 冒険者は――正確に言えば迷宮挑戦者は、迷宮からの恩恵を受けることができる。

 見知らぬの宝、豊富な資源、未知の技、そして、人並外れたちからを得る。

 それは同時に人を辞めていくということだ。

 新しい酒場のマスターから聞いた話だが、冒険者の大半は中級で留めることが多いらしい。

 一つは上級迷宮にあまり旨味がないということ。


 もう一つは、人を辞めていくということ。


 上級冒険者の大半は、滅多に人前に出ない。

 その存在そのものが異常に見えるそうだ。

 酒場のマスターは過去に一度、上級冒険者の一人を見たことがあるらしい。

 気が付けば、病院のベットで起きたそうだ。

 何が起きたか覚えていない、と本人は言うが、そのことを語る時の顔は青く、手は震えていた……恐らく言いたくないのだろう。

 うーん、上級冒険者になりたくないなぁ。

 このままソロでどうにか、中級で生き続けることができたなら、隠居も考えよう。

 もう元の世界に帰る気も起きないし、何か特別な理由がない限り、今の生活を維持できるように頑張ってみよう。

 ソロだけど。

 ぼっちだけど。


 ……つらいなんて、そろそろ言えないかもしれない。


 がんばろう。

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