第47話 初恋

 あれ以来、毎日少年の夢をみる。


 少年に起きた出来事をただ見る夢もあれば、また白い空間で少年と自分が話している夢もある。


 その少年は明るかった。

 

 そして優しかった。


 少年がいる場所は、見た事のない場所だった。


 綺麗な道に、見た事がないくらい大きな建物。


 そこにはシン以外の沢山の男女がいた。


 全員人族だった。


 茜は知らないがそこは小学校である。


 そこでシンは楽しそうに友達たちと遊んだり、何かを学んでいた。


 そして自分が成長するとシンも同じように成長をしていった。


 たまに二人しかいない空間でシンがしていた遊びをしたり、茜の話を聞いたり、シンがしていたことやシンのいる場所について聞いたりしていた。


 それはまるで仲のいい幼馴染のようだった。


 ある時、シンに好きな子ができた。


 それは自分ではなかった。


 シンは苦しんでいた。


 茜はシンが好きな子が自分でなくて少し寂しかったけどシンを元気づけた。


 そしてシンがその子に告白するのをドキドキしながらみている。


 不安だった…


 そしてシンは振られた…


 正直安心した。


 でもシンは凄く悲しそうだった、凄く辛そうだった。


 それを見て茜も辛くなった。


 安心した自分が悪い奴に思えた…


 その夜、シンは笑いながら、照れ隠しするように頭を手でかいて


「やっぱり振られちゃった、まぁこういうこともあるよね。あはは。」


 と言った。


 茜に悲しい顔をみせないようにしているのがバレバレだった。


 強がりだとすぐわかった。


 なぜならずっと見ていたからだ。


 茜の胸は締め付けられる。


 そんなシンを見ていられなくなる。


 茜はシンに抱き着き、頭をなでる。


 すると、シンは目をギュッと瞑り、涙を堪えている。


 茜の胸は更に苦しくなった。


 この人を守りたいと思った。


 自分が辛い時、シンはいつでも隣にいてくれた。


 自分の話を笑いながらいつも聞いてくれた。


 面白い話でいつも自分を笑顔にしてくれた。


 そんなシンが…大好きだった。


 いや大好きになっていた。


 茜は初めて知った。


 この気持ちが恋だと。


 そしてシンを大切に思う気持ちが、おじいちゃんと約束した愛だとわかった。


「シン、あたしはずっとシンの事が好き。大好き。だから泣かないで。」


 茜はシンの頭を優しく撫でる。


 おじいちゃんが茜にそうしてくれたように。


 おじいちゃんのお母さんがそうしたように…


 そして強く抱きしめた。


 それ以来茜は認めることにした。


 この気持ちを…


 この愛を…


 茜は16歳になった。


 あれ以来、シンに好きという気持ちを伝えたことはなかった。


 茜が見ている世界に自分はいない。


 だから、自分の気持ちを伝えることがシンの重みになることを知ったからだ。


 いつも笑顔でシンと仲良く話すだけだった。


 だが、心の中ではシンをずっと愛していた。


 シンからは好きとは言われても愛していると言われたことはない。


 自分を愛しているかなんて茜には聞けない。


 それにシンが誰に恋をしようと、関係ない。


 あたしはシンが好き、シンを愛してる。


 この気持ちは誰にも譲れない。


 そしてその時は訪れた。


 シンは突然真剣な眼差しで茜に話す。


「茜ちゃん、俺な。もうここにはこれなくなった。」


 シンの言葉に茜は激しく動揺した。


「なんで!どうして?茜の事嫌いになったの?」


「そうじゃない、茜の事は大好きだ。いつも俺に元気をくれた。」


「じゃあなんで…」


「そういう決まりなんだ…俺はずっと茜の傍に居たいけど、もうここにいることができなくなるんだ。」


 シンは悲しそうな顔をする。


「もう会えないの?」


 茜は涙を堪えてシンに尋ねた。


「いや、必ず俺は茜に会いに行く。茜と俺は運命で繋がってる。必ず会える、会いに行く。それまで待てるかい?」


「うん!待てる!死ぬまでずっと待ってる。シンはね、茜の運命の人なの。だから信じる。本当のシンに早く触れたい!その時はね…茜、シンの事、シン様って呼ぶね!!」


 茜は笑顔で答えた。


「シン様って…そりゃいくらなんでも恥ずかしいだろ。それに茜に会った時、俺は多分今までの茜との記憶はないぞ?」


「大丈夫!シンが覚えてなくても、茜を知らなくても、茜はシンの事知ってるから。シンの事愛してるから!!」


「俺も茜が大好きだよ。早く茜に会いたい。この気持ちが愛なのか、ごめん。俺まだわからない。でも早く会いたい。茜を大切に思う気持ちは嘘じゃない。だからいうよ、大好きだ。」


「嬉しい…いいの。シンの気持ちが愛じゃなくたってかまわない。だからね、あたしの事を知らないシンを見つけたらいっぱいいっぱいアタックしてシンをメロメロにしてやるんだ!絶対振り向かせてやるんだから!覚悟してよね。」


「ちょっと怖いな、それ…でも嬉しいよ。じゃあお別れだ。また絶対会いにいくから!絶対だ。」


 シンがそう告げると茜はシンの右手を取り、自分の薬指とシンの薬指を絡ませた。


「懐かしいな、これ、指切りか。」


 シンがそういうと、茜は


「シンは知ってるんだね。約束を絶対守るおまじないだよ。一緒に歌おう。」


 二人は一緒におまじないをする。


「ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指きった。」


「えへへ、これで絶対約束は守られるね。」


 茜は嬉しそうになるも、その目からは涙が溢れている。


 そしてシンは…


「じゃあ、これは俺からのおまじないだ。」


 そういうと茜の唇にキスをした。


「え?」


 茜は驚いて目を開いた。


「じゃあね!茜!またね!」


 そういうとシンは消えていく。


 そして残された茜はいつものように小さく囁いた。


 頬を茜色に染まらせて…


「シン様…愛してる。おじいちゃん…約束守ったよ。」

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