第45話 シャボン玉

 茜はまたその白い空間に一人になった…


 今度は知らない青年が一人現れ、空を見つめている。


 その青年は大きな毬のような玉を持っていた。


「あの人…誰だろう…」


 茜がそう呟くと、青年は茜に気付いたように茜に振り返り、ニコっと笑った。


 びっくりした茜は、目を反らした。


 今まで自分はそこにいても誰にも気づかれることがなく、周りには自分が見えていないものだと思っていた。


 青年は両手を上空に上げて一言だけ空に言葉を放つ。


「来世にも愛が繋がりますように…さぁ、お行きなさい…ありがとう、そしてさようなら…」


 彼は誰に話しているのか?


 誰に感謝したのか?


 茜にはわからなかった。


 すると、彼の周りを無数のシャボン玉のような光の玉が浮かび上がり、空に飛び立っていく。


 その玉の大きさは、まちまちであり、大きい物もあれば小さいものもある。


 大きい球は人が入れるくらい大きかった…


 なぜかとても神秘的な光景に見える。


 彼を中心に、彼を囲むようにどんどんと玉が浮かび上がり、空へ消えていく…


 そして茜は気づいた。


 玉の中に誰かがいるのが見えた。


 二人いる。


 とても幸せそうな笑顔だ。


 その二人は決してこの手を離さないといった風に恋人繋ぎで手を繋いでいる。


 二人は誠と美琴だった。


 二人とも何か楽しそうにお話をしているみたいだ。


 ふと、誠は茜の方をみて、優しい笑みを浮かべ手を振った。


 隣の女性も茜に振り向き、同じように手を振っている。


 何かを茜に伝えようとしているみたいだ。


 しかし、その声は茜に届かない。


「なんて言ってるの?おじいちゃん…」


 茜は、どうしたらいいのかわからない。


 しかし、大好きなおじいちゃんが空へ旅立とうとしていることは分かった。


 だから茜も大きく手を振った。


 そして声が届くように全力で叫んだ。


「おじいちゃん!!ありがとう!!本当にありがとう!私も!必ずお爺ちゃんみたいに素敵な人と結ばれるからね!!約束!守るからね!」


 誠を乗せた玉はそれに応えるように一瞬光ると、空に消えていくのだった…


 そして全ての玉が空に消えると、青年も一緒に消えていた。


「あの人…だれだったんだろう…でも…おじいちゃん幸せそうだった…」


 こうして、茜の夢の中の出来事は終わるのだった…

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