第44話 来世

 実は美琴はあの後、誠が町を出て行きしばらくして修羅に捨てられた。


 もう修羅にとって美琴は用済みだったのだ。


 捨てられた美琴は悲惨である。


 その後も誠の元嫁という肩書だけは残り続け、誰からも相手にされなくなり、ずっと一人で生きていき、そして一人ひっそりと死んでいったのだった。


 それは誠と別れて5年後の事である。


 死ぬ前に美琴は後悔した。


 どうしてあの時、もう少し誠を信じてあげられなかったのか。


 どうしてあんなにも酷い事を誠に言ってしまったのか


 どうして修羅の甘い言葉に乗せられてしまったのか


 どうして…どうして…どうして…どうして…


 美琴はずっと後悔と共に思い悩んでいた。


 そして最後に、これは誠を深く傷つけた自分への罰だと思った。


 美琴は誠との生活を本当に無駄だとは全く思っていなかった。


 ただあの時は、少しは自分の苦しさを知ってほしかった。


 もっと自分を見て欲しかった。


 だから酷い事を言ってしまった。


 本当は最強なんてどうでもよかった。


 ただ自分の事だけを見て欲しかった。


 そして誠を失ってから、本当は誠に大切にされていたことに気付いた。


 あの時は自分の事しか頭になかった。


 愛してほしい…愛してほしい…愛してほしい…


 誠に愛してほしかった…愛してると言って欲しかった。


 でもその言葉は1度も言ってくれない。


 すると胸が苦しくなった。


 自分が誰からも愛されていないと思った。


 自分は誰からも必要とされていないと思った。


 自分には何もないと思った。


 子供がいれば違ったかもしれない。


 しかし、不運にも子供ができなかった。


 だからこそ、こんな自分を愛してると言ってくれた修羅に靡いてしまったのだ。


 それこそ、言葉だけの本当の愛でなかったのだが。


 それでもよかった。


 嘘でもよかった。


 愛してると言われたかった。


 誰かに自分を求められたかった。


 自分の存在を認めてもらいたかった。


 自分を必要としてもらいたかった。


 そう…


 誰かに愛してほしかっただけなのだ…


 でも時は戻らない。


 誠はもういない。


 修羅はただ私を利用しただけだとすぐわかった。


 そして後悔した。


 故に、今誠からの言葉を聞いて、居たたまれない気持ちで一杯になる。


 ただ自分が愛してしまったあの時と同じ、大きく優しいこの手で頭を撫でられ、泣きじゃくることしかできなかった。


 そして誠はと言うと…


 実は誠は店が落ち着いてから、何度か美琴を探しに変装して旧大和町(現羅刹町)に足を運んでいた。


 何度探そうとも、何度聞き込みをしようとも美琴は見つからなかった。


 別に美琴とやり直したかったわけでもなければ、美琴に文句を言う為でもない。


 もうその頃の誠には愛すべき、守るべき者がいた。


 小百合が居ればそれでいい。


 だから、美琴に未練があったわけではない。


 しかし、ずっと謝りたかったのだ。


 愛に気付き、そして自分の過ちに気付いた。


 だからこそ、美琴にだけは謝りたかった。


 そして、数年が過ぎた頃に美琴が既に亡くなっているのを知った。


 誠はその話を聞いた時は信じなかった。


 しかし、調べれば調べるほどそれが事実だと知る。


 せめて、美琴の墓でもいいから見つけたい。


 そう思って必死に探すも見つからない。


 そして小百合が心配するから仕方なく誠は諦めた。


 それからは、美琴から注がれ続けていた愛を今度は小百合に返していこうと心に誓い、以後、その町に行くことはなくなった…


 二人は愛という運命の歯車によって出会い、そして回り続けるも、うまくかみ合わなくなり、それは動かなくなる。


 やっと部品が見つかった頃には既に片方の歯車は壊れており、二度と戻ることはなかった…


 そしてお互いその生涯を終えた今…初めてお互いの言いたかった事を言えた。


 神様がくれた最後のチャンスかもしれない…


 誠は美琴をそっと自分から離すと美琴を真剣な眼差しで見つめながら言った。


「今更になって本当に情けないけど、美琴…お前を愛してる。もうお前を離したくない…いや絶対に離さない!だから…生まれ変わっても必ずお前を見つけてみせる。そして今度こそ、俺の生涯をお前と共に生きていきたい!」


「まこと…」


「こんな俺に言われても嫌かもしれない。お前は俺を拒絶するかもしれない。だがそれでもかまわない。お前が例え俺を愛してなくても、俺はお前を愛し続ける!」


 そう誠は美琴に伝えると美琴は何も言わず、誠の指をとって自分の指に絡めた。


「指切りげんまん…嘘…ついたら…針千本…のーます…指きった…」


 美琴は涙で途切れ途切れになりながらもそのおまじないを唱えた。


「約束は絶対守らないとだめだよ…今度こそは…私を…離さないで…」


 そういって美琴は誠に抱き着いた。


「まこと…愛してる…絶対見つけて…絶対だよ?他の女と一緒にいたら絶対許さないんだからね…」


「あぁ…俺もお前を愛してる…お前以外の女と一緒になる気ははない。必ず見つける。必ずだ!!」


 そして二人は茜の前からいなくなった…


 茜は胸が張り裂けそうな程切ない気持ちになる。


「これが…愛…なんて切なくて…激しいの…こんなの…私には無理よ…おじいちゃん…」


 最後に茜はそう呟くのだった。

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