第43話 再開

 何もない真っ白な空間から幼い子供と母親が消えると、今度は二人の男女が現れた。


 一人は見た事がない金髪の綺麗な女性。


 角が少し出ているから、茜と同じハーフかもしれない。


 もう一人の男の方をみる。


 角があり、こちらもハーフだ。


 目が少し鋭く、若々しいが見間違えるはずはない。


 茜は呟いた…


「おじいちゃん…?」


「そういえばさっきの母親も誠って言ってた…誠っておじいちゃんの名前だ…どうして気付かなかったんだろう…」


 その時、さっき見た幼い子供が誰に似ていたのか気付いた。


 誠である。


 今度はもう少し大人になって、茜より一回り年上のように見えるが、間違いない、誠だ。


 すると女性の方が元気の良い明るい声で誠に話しかけ始めた。


「誠!久しぶり!!元気だった?それとも私とはもう会いたくなかった?」


 その女性は、少しいたずらな目をして誠に言った。


「綺麗な人…誰だろ?おじいちゃんの好きだった人かな?」


 茜は見た事のない女性だったので、その女性が誰かわからない。


 すると、誠はその女性に答えた。


 その目は少し悲し気で、辛そうな目だった。


「美琴…本当に久しぶりだね…相変わらず元気で可愛いな。」


 そう言われて美琴は驚く。


「嘘!誠に可愛いなんて初めて言われた!!どうしたの誠!?随分かわったじゃない。」


「そうだな…あれから色々あってな。もしも、もう一度お前に会えたならずっと言いたい事があったんだ。最後まで言えなかったがな…」


「なによぉ~なんか誠らしくないじゃない、なになに?私がひどい事いったから文句言いたかったんでしょ!いいわよ、聞いてあげる。」


 そういって、美琴は何かに耐えるように目をぎゅっとつぶった。


 美琴は後悔していた。


 誠を深く傷つけた自分を許せなかった。


 だからこそ、誠に自分が言ったように酷い言葉を言って欲しかった。


 どんな罵倒であろうと受け入れようとした、例えその言葉が自分にとってどれだけ残酷なものであろうと…


 だがしかし…誠からの言葉は美琴の思いとは裏腹に全く違う言葉であった…


「美琴…ずっと辛い思いをさせて悪かった。本当にごめんな。俺はお前を恨んでなんかない、全部俺のせいだ。お前は悪くない。悪いのはずっとお前の事を大切に思っていたのに、それを伝える事ができないでいた俺だ。だから本当にごめん。」


 ・・・・・・・・・・・


 美琴は誠の言葉に驚き、目を大きく開いた…そして誠は続ける…


「俺はお前をあの時…ずっと愛していた。それに気づかなかった俺はおろかだった。お前がどれだけ俺に幸せを与えてくれたか、俺に愛を与え続けてくれたか…今ならそれがわかる。だからいうよ、こんな俺を愛してくれてありがとう、毎日笑顔をくれてありがとう、そして愛を教えてくれてありがとう…俺はお前を…」


   「誰よりも愛してた!」


 誠がそう美琴に告げると、美琴の目から涙が溢れる…


「嘘でしょ…そんな…誠が私を愛してたなんて…なんで!!なんであの時…いえ、裏切ったのは私だわ。誠に愛してるなんて言ってもらう資格は私にはない!もっと私を責めてよ!売女だとののしってよ!!なんで…なんであなたが謝るのよ…なんで…どうしてよ!今更そんな事いわないで!!」


 美琴は若干発狂したように、涙を流しながら誠に叫ぶ。


 しかし、誠はそんな美琴を抱きしめて、頭を撫でた。


 それは…あの日…美琴がオニンピックで負けた時、誠が美琴にしてあげた事と同じだった。


 あの時の疑問が今ならわかる、それは母親が誠にしてくれた事だった。


 そして「愛してる」という言葉は、誠の母親が死ぬ前に誠に贈った言葉だった。


「愛されることに資格なんていらないんだ…美琴に対して感謝こそすれ文句を言うはずがない。美琴は空っぽだった俺の心にずっと愛を注ぎ入れてくれたんだ。それを俺の心がまだ受けきれず、美琴の注ぐ水が足りなくなっただけだ。美琴は悪くない。」


 美琴は涙を零しながら、誠の言葉をジッと聞いている…


「あの日…美琴に言われた言葉はずっと俺の胸に残っていた…最初はその言葉を呪った事もあった。でも今は違う。あれは当然の報いだ。むしろ美琴が受けて来た寂しさに比べれば全く足りてない。今なら時間がある。美琴の辛かった思いの分、俺をもっと罵ってくれ。」


 誠はそう優しく美琴に伝えるのだった…

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