第42話 母の愛

 あの日…誠との別れの日…その日の夜、茜は夢をみた。


 幼い子供が、母親のような優しい笑みをした人族の女性に抱きしめられ、そして頭を撫でられている。


 それを遠くから茜は見ていた…


 その幼い子供はどこかで見た事がある気がする…


 誰かに似ているような…


 そして、女性の声が茜に届く。


「誠ちゃん…よく頑張りましたね。辛かったでしょう…」


「ママ…僕ね、色々あったけど、楽しかったよ!」


 誠と呼ばれた子供はママと呼ぶ女性に子供らしい可愛い笑みを浮かべて嬉しそうに話す。


「そう!それはよかったわ!誠ちゃんが幸せな事がママにとって1番の幸せよ。」


 どうやら二人は親子のようだった。


 母親は子供の嬉しそうな笑顔を見て、嬉しそうに微笑んだ。


「えっとね…最初は寂しかったの…ずっと一人で…何もわからなくて…」


 母親は子供の話に耳を傾ける。


「でね、その後ね、よくわからなかったんだけど、多分大勢の人に酷いことしちゃったんだ…」


「うんうん、悪い事しちゃったんだね。」


 母親は相槌を打ちながらも、誠の話を遮らないように聞いていた。


「僕ね、その時はよくわからなかったんだ…でも、その後に色々教えてもらってね…それでね…僕悪い子だったの…」


「そうだったの…悪い事したらちゃんと謝らないとね。」


「うん!でもね、ママ。もう謝る事できなかったの…もういなかったから…だからね、代わりにこれからはいい子になろうとしたんだ。」


「そうね、謝れないなら反省して、自分が変わるしかないものね。」


「なんかね、僕ね。その時はわからなかったけど、ずっと頭の中にママの「愛してる」って声が残ってて、それがわからないけどずっと知りたかったんだ。」


「ママは誠ちゃんがお腹の中にいる時からずううっと誠ちゃんを愛してたの。でも中々伝えることができなくてね、ママ弱かったから…誠ちゃんにずっと辛い思いさせてた…本当にごめんね。」


「ううん!ママは悪くないよ!僕もね、最初に僕を好きって言ってくれた人にずっと愛してるって言えなかったんだ…愛してるっていうのがわからなかったの…僕バカだから…」


「誠ちゃんはバカなんかじゃないわよ。ママなんかよりずうっと頭のいい子よ。誠ちゃんが愛がわからなかったのはママのせいなの…本当にごめんね。」


「それでねそれでね、そしたらね、僕の事好きって言ってくれた子はね、僕の事嫌いになっちゃっていなくなっちゃったんだ…凄く悲しかった…」


「そうよね、悲しいわよね…大切な物が自分から離れると胸がぎゅううって辛くなるの。誠ちゃん、辛かったね、よく我慢したね。いい子いい子」


 母親は抱きしめながら子供の話を聞いていたが、今度は子供の頭を撫でた。


 子供は嬉しそうに目を閉じる。


「ママ、僕いい子じゃないよ。だって僕が悪いの。大切な物は大切にしないと、本当に大切な物にならないって気付いたから…だから僕が悪いの。」


「誠ちゃんはね、きっと大切に思っててもその伝え方がわからなかっただけよ。それはね、本当はママが教えてあげなければないけいないことなの。だから誠ちゃんは悪くないのよ。誠ちゃんはいい子よ。他の誰が誠ちゃんの事を悪い子って言ってもね、ママだけは絶対にずうっとずうっといい子って言ってあげる。だって私の愛してる可愛い子だもの。」


「ママありがとう!!僕もね、ママの事愛してるよ。ずっと言えなくてごめんなさい。」


「いいのよ、愛してもらう為にあなたを生んだんじゃないの。愛したいからあなたを生んだのよ。例えあなたがママを嫌いになっても、ママを愛してなくても、ママはずっと誠ちゃんを愛してるわ。」


 母親は愛おしそうに子供を抱きしめ、頭を撫でている。


「ママに頭撫でられるの、僕大好き。」


 そういうと二人はそのまますぅっと消えていなくなった。


 その何もない白い空間で茜は静かに涙を流していた。


 その二人の優しい愛が茜の心の奥にまで染みわたっていた…


「あたたかい…」


 そんな呟きが、何もない空間に静かに流れるのだった…


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