第41話 別れ

2か月後


 ボロボロになりながらも、誠は家に帰ってきた。


「おじいちゃん!!」 


 最初に誠を見つけたのは茜であった。


 誠との約束以来、毎日茜は朝早く1時間玄関で誠を待っていたのだ。


 そして誠の姿を見て絶句した。


 誠は体中に黒い斑点が浮かび上がっており、息も絶え絶えで瀕死であった。


 誠は精霊病を発症していた…


 戦争中、誠は同じ鬼族を庇いながら戦っていた。


 当然精霊の力を借りる場面も多く、誠の精神はかなり深いところまで傷ついてしまう。


 命からがら、家族の下に戻ることはできたのだが、精霊病は進行しすぎていた…もはや助かる術はない。


 本来なら今生きていることが奇跡である…歩くこともできないはずだった…


「誰か!!誰か早くきて!医者を呼んで!!おとうさん!!おかあさん!!」


 すぐに茜は周りに助けを求めながら、誠に向かって走った。


 誠は茜に気付くと、茜に倒れかける。


 それを茜は小さな体で必死に受け止めた。


「茜か…元気そうで…なによりだ…ほらな…おじいちゃん…ちゃんと約束守ったろ?」


 茜はその姿を見て泣き出した。


「おじいちゃん!!もういいよ!大丈夫、茜はお爺ちゃん信じてたよ。絶対生きて帰ってくるって。だっておじいちゃんは私をいつも信じてくれた。だから茜もお爺ちゃんの事信じてたんだよ?」


 茜の鬼気迫る声を聞き、家から豪鬼と小百合が出てくる。


「小百合!!直ぐに医者を呼んでくれ!」


 豪鬼はそういうと、誠を抱きかかえて家の中に入れて、布団に寝かせた。


「すまねぇ!!すまねぇ親父!!本当にすまねぇ!!」


 豪鬼はひたすら涙を流しながら謝る。


 しかし、誠は目を開けずに


「何を謝ってる、このたわけが…お前がそんな弱気でどうする?茜や仁も見てるだろ?お前は一家の大黒柱なんだ!ドンと構えてろや…ゴホッ…」


 誠の口から特大の赤い液体が噴射する。


「おじいちゃん!!ねぇお父さん!早くお爺ちゃんを助けて!お願い!何でもいう事聞くから!いい子にするから!おじいちゃんを助けて!!」


「わかってる!わかってるんだよ!そんなことは!!!くそ…なんで俺はいつも肝心な時に力がないんだ…家族を守る力さえあればそれでいいのに…あんたは絶対しなせねぇ!ほかでもない、俺に愛を気付かせてくれた親父だけは絶対に救ってみせる!小百合!!!!まだか!!!はやくこい…さゆりいいいいいいい!!」


 豪鬼は必死に吠えた。


 そしてすぐに小百合は医者を連れて戻ってきた。


「お父さん!!お父さん大丈夫?今医者を連れて来たわ!!もう大丈夫よ。」


 小百合の言葉に誠の返事はない。


「おら!医者!!早く治せ!金ならいくらでもだす!なんならこの店をくれてやってもいい!頼む!親父を救ってくれ!」


 豪鬼は医者に土下座して懇願する。


「これは…精霊病…まさかここまで進行しているとは…」


「なんだよ精霊病って!助かるんか?助からねえのか!どっちだ!いや助けろ!」


 医者の言葉に豪鬼は語気が荒くなる。


「無理じゃ…これは病気であって病気ではない。もう持って5分ってとこじゃ。ここまで生きて帰ってこれたことが奇跡じゃ。」


「てめぇこのやろう!!それでも医者か!!ふざけんな!小百合!!もっとまともな医者を呼んで来い!!」


 豪鬼は発狂したかのように叫ぶ。


 その声に気が付いたのか、誠の口から言葉が戻る。


「ばかやろう、うるさくて眠れねぇだろが。もうゆっくり…眠らせろや…。」


「親父!!!意識が!!親父!!」

「お父さん!!」

「お爺ちゃん!!」

「じじぃ!!」


 豪鬼、小百合、茜、仁がそれぞれ誠に声をかける。


「まったくどいつもこいつも…最高に可愛い奴らじゃねぇか…俺の人生も命より大切にしていたものに囲まれて逝けるんじゃ、幸せ過ぎて地獄に落とされちまうな…」


 誠は続けて家族全員の名前を呼んだ。


「小百合…お前に出会えて、俺は本当に幸せになれた。お前こそが俺にとって神、いや女神だった。ありがとう。幸せになれたか?お前の幸せな姿こそが俺の生きがいだ。」


「うん…うん…なれたよ。パパも幸せ。私も幸せ…私もパパに会えて本当に幸せだったよ…」


「豪鬼…バカなお前だったけどお前の意思の強さと優しさは本物だ。俺の代わりに俺の大切に育ててきた愛を…守ってくれ…できなかったら地獄でしばくからな…」


「おう…親父…おらぁ、親父に拾われなかったらただのゴミだった…くそ…これ以上なにも言えねぇ…自分のバカさ加減にほとほといやになるぜ…親父から渡された大切なもんは絶対守る…ありがとう…親父…」


「仁…お前にはあまりかまってやれなくてすまなかった。だがお前が誰よりも優しい心を持っておるのをおじいちゃんは知ってるぞ。豪鬼がいない時は、お前が母親と妹を守れ…それが男ってもんだ…」


「じじぃ…俺が親父より強くなって、一番強くなって、全員守ってやるから、心配すんな!!」


「そして茜…今まで辛かったなぁ…最後まで一緒にいてやれなくてごめんな。だけど、いつか必ず自分よりも大切な者が現れる…愛を…知りなさい…おじいちゃんからの最後の約束じゃ…」


「おじいちゃん…やだよ…一人にしないでよ…」


「茜…指を…愛を…」


 誠はそういうと茜と指切りをする。


「指切り…げんま…ん…嘘ついたら…針千本…ゴハ…のーます…指…きっ…」


 誠が最後の言葉を言い切る前に、茜と繋いでいた指の腕がガクッと落ちる。


 誠の命の糸が切れた瞬間だった。


 彼の人生の幕は彼が守ると誓った全てに囲まれて、閉じる事となった。


 誠の人生は長い戦いの日々であった。


 そして裏切られ続ける事で、一度は全てを失い、そして憎み、誰も信じることができなかった過去。


 しかし、その後に小百合との奇跡の出会いにより、本当の愛を知った。


 彼の波乱の人生の最後は、愛する者達に看取られた安らかなるものとして、その人生を終えるのであった…


 茜との約束を残して…


「おじいちゃん!!おじいちゃん!!約束守るから!絶対守るから!!おじいちゃんみたいな素敵な人見つけるから!!だから…おじいちゃん…ありがとう…」


 そういって茜は誠と今生の別れを終え、2人だけの最後の約束を守る事を心に誓うのだった…

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