第40話 約束

 誠の腕の中でスヤスヤと眠る茜…


 そんな茜を見ていたら誠まで眠くなってきた…


 誠は布団を敷くと、茜を横にさせ、自分も寝る事にするのだった…


 そしてその夜、誠は夢を見た。


 誠の前に立っているのは、ハーフパンツとTシャツをきて、変なボールを抱えている奇妙な青年だった。


 その者は誠に言った。


「じいさん、今まで本当によく頑張ったな!あんた最高に格好良かったぜ!茜の事が心配なんだろ?」


 誠は驚いた、なぜ見ず知らずの人族の青年がそのことを知っているのかと。


「おぬしは誰だ?なぜそれを知っている?」


 青年の男は笑いながら答えた。


「なぜって?全部見てたからさ、あ、これさ、なんか茜の能力みたいなんだよね。だから心配すんな。」


「茜の能力だと…なぜそれを知っている…」


「そりゃあ…うーん…そこは気にしないでくれ。茜はあんたがいなくなっても、俺が責任をもって面倒見るからさ、爺さんは爺さんのできる事をやりなよ。」


「なぜ見ず知らずのお前に茜を任せることができると言うんだ。ふざけるな!」


 誠は激昂した。


「当然俺の事は信じなくていい、だけどな自分が育んだ愛と茜だけは信じなよ。爺さんが周りに与えてきたでっかい愛はさ、決して消えないから。」


 青年はそう言うなり、消えていった。


「待て!まだ聞きたい事がある!!」


 しかし、そこにはもうさっきの青年はいなかった…


 そして誠は目が覚めると、さっきの夢を全て覚えていた。


 ふと、横で寝ている茜を見る。


 とても幸せそうな安心しきった顔だった…


「不思議な夢だ…そうだな…信じてみるか、俺は俺のできる事をするだけだ…」


 その日から誠は今まで以上に茜の傍にいることにした。


 誠は戦争に行く事を決意していた。


 だからせめてそれまでは何も言わず、茜の傍にいようと…


 そして戦争に行く前日の夜、誠は茜を部屋に呼んだ。


「茜、おじいちゃんな、やっぱり戦争に行くことに決めたよ。茜が心配で散々悩んだんだけど、やっぱりおじいちゃんは守るべき者の為に戦う事にした。」


「やだよ!!なんで?茜の事はどうでもいいの?ねぇ!絶対ダメ!行かないで!お願い!」


 茜は泣きじゃくりながら、誠に抱き着いた。


 そんな茜の髪を誠は優しく撫でた。


「ごめんな、それでもおじいちゃんは死にに行く。大切なものを守る為なら、自分の命すら投げ出さなければならない時があるんだ。今はまだわからないくていい…」


「わからないよそんなの!茜を一人にしないっていったのに…お爺ちゃんの嘘つき!!」


「茜を一人にしない為にお爺ちゃんは行くんだ。茜にはお父さんとお母さんがいる。二人が茜のことを本当に大切に思っているのは間違いない。おじいちゃんが約束する。」


 それでも茜は泣き止まず、叫ぶ。


「やだやだやだやだやだ!絶対やだ。お爺ちゃんがいてくれれば茜はパパもママもいらない!お爺ちゃんがいい!!」


 その言葉を聞いた誠は、抱き着く茜を引き離すと初めて茜の頬を引っぱたいた。


    パン!


 そして今度は強く抱きしめた。


「茜、叩いてしまってごめんな。でもな、今の茜の言葉は何よりもおじいちゃんを悲しくさせたのをわかってほしい…」


「叩いたおじいちゃんを嫌いになってもいい。でも絶対忘れてはならないことがある。茜は両親の愛から生まれ、そして愛によって成長してきたことを。」


「だから両親がいなくなっていいなんて絶対に言ってはならない。両親がいない辛さは、おじいちゃんもおかあさんもおとうさんもみんな知っている。だからこそ、茜にはそうはなってほしくない…」


「お爺ちゃんは茜を愛している。そして同じくらい家族全員を愛している。いつか、茜にそれを…愛を気付かせてくれる者が必ず現れる。必ずだ!おじいちゃんは絶対嘘は言わない。だから信じてくれ。茜は決して一人にはならない!」


 ング…ング…ング…ヒック…ヒック…


 茜は誠の胸の中で誠の言葉をしっかりと聞きながらも涙が止まらない。


「茜、俺は必ず生きて帰ってくる。茜の言う事を信じてないわけじゃない、だが、どんなに瀕死になろうとも必ず帰ってくる。約束だ。」


 そういうと、誠は右手の小指を茜の右手の小指に引っ掛ける。


「これは指切りといって約束を必ず守るというおまじないじだ。ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます、ゆびきった」


 そういって、指を離した。


「本当?ヒック…絶対?絶対だよ?ヒック…絶対帰ってきてよ!約束だよ?」


 茜はまだ泣いてしゃっくりが止まらないまま、誠にそう言った。


「絶対帰ってくる、これだけは神にも譲れない。」


 そして翌日、誠は家族全員に見送られ戦争に向かった。

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