第39話 お告げ

 誠が戦争に行くことが決まった時、一番騒いだのは茜であった。


 茜は、誠が消えていなくなってしまう夢を見たのだ。


 それは、むしろお告げに近かった。


 茜はその夢が必ず現実に起きるという事を知っている。


 それこそが茜が発現した闇の精霊の力だった。


 誠は気づいていた。


 茜と一緒にいることが多く、時折、誠に不思議な事を話すことがあった。


 最初はよくわからなかったが、直ぐに気づいた。


 茜が話している内容が未来の予知であることが。


 茜の予知はかなり高い精度であり、一度予知した事は必ず起こるのだった。


 だからこそ、茜だけは知っている。


 誠が戦争に行けば、必ず死ぬということを…


 茜は誠が戦争に行くと聞いた時、何度も泣きわめき、何度も両親にお願いした。


「お願い!パパ、ママ。おじいちゃんを絶対戦争に行かせないで!」


 普段茜はこんなに必死になって両親に駄々をこねるような事はない。


 しかし、鬼族はルールを守らなくてはならない。


 当然、豪鬼は自分が行くといっており、誠が戦争に行く必要はなかった。


 だが誠がこれに対して頑として譲らないのだ。


 戦争では何が起こるかわからない…それを誠は自身の経験で知っていたのだ。


 もしも豪鬼に何かあれば、まだ小さい孫たちが片親になってしまう。


 それだけは許せなかった、自分が生きている内は絶対に家族は俺が守る。


 誠の命を懸けた誓いはどうやっても曲げることができなかった。


 豪鬼が何度も説得してもだめだったのだ。


 しかし、茜にはそれがわからなかった。


 自分の父親が大好きなおじいちゃんを生贄に出しているとさえ思っていたのだ。 


 ついには、茜は自分の顔を包丁で切り付けようとしてまで訴えた。


 これには流石の両親も焦り、必死で抑えたが、茜は全くいう事を聞かなかった。


 それを見た誠は茜を自分の部屋に連れて行った。


 茜に何で誠が戦争に行く事を反対しているのかを尋ねる。


 誠が恐ろしく強いことは茜は知っているはずだった。


 すると、茜は誠が戦争に行くと必ず死ぬという夢を見たという。


 豪鬼と小百合は信じてくれなかったようだが、当然誠は茜の言葉を信じる。


 自分は必ず死ぬと。 


 しかし、誠はたとえ死ぬとわかっていても後悔等は一切ない。


 それどころか、自分の命よりも大切な家族の為に死ねるならば、神様に感謝したいくらいであった。


 自分は十分に生きた、そして、小百合と出会い、愛を知り、息子替わりの男の成長を見守り、孫すらできたのだ。


 小百合の幸せの為に立ち上げた小さな飯屋は、町で一番人気の有名な料亭となり、そして来年には念願の旅館も完成する。


 幸せ過ぎた…これ以上の幸せは最早誠には無かった。


 仁や茜の成長をもう少しみたいというのと、旅館の完成をみたいという思いもあったが、それでも彼は満たされていた。


 愛の為なら死など恐れるものではない。


 唯一心配なのは茜である。


 茜はいつも我慢し、悲しい思いをしている。


 もしも自分が居なくなったら、茜はおかしくなってはしないだろうか?


 それだけがどうしても心残りだった。


 茜はいつまでも泣いて誠に抱き着いている。


 それは絶対に戦争に行かせないという意思の現われだった。


 誠は悩んだ。


 茜をこのままにするわけにはいかないと。


 だから言った。


「茜、わかった。おじいちゃん、戦争に行くかどうかはもう少し考える事にするよ。だからもう泣かないで。」


「本当?戦争行かない?」


 茜の質問に誠は答えない。


 ただ一言


「茜を一人にはしない。それは約束する。」


 そういうと茜は誠の腕の中で泣きつかれたのかそのまま眠るのだった…


 

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