第15話 開戦

 昨日行われた開会式を終え、今日より町の威信をかけ鬼族の国のトップを決めるべく、強者達の戦いの幕が上がる。


 そしてトーナメント表が開示された。


「ほう…最初は隣町か…運がいいな。」


 誠はトーナメント表を見て邪悪な笑みを浮かべる。

 しかし美琴と武蔵の反応は違う。


「どこが運がいいのよ!!最悪じゃない!隣町は前回準優勝してるのよ!」

「ふむ、我は明日より奴隷か…」


 隣町は誠の住む町とは因縁の町であり、一度も勝ったことはない。


 しかし相手のチームで一番強い者は火の使い手であったため、誠にとっては属性上有利であったし、相手のチームは前回と大きく変わらないのであれば、その火の使い手以外は大したことはない。他のメンバーでもギリギリ勝てる可能性があるレベルだ。


 そしてもう一人、トーナメント表を見て青ざめた顔をしている者がいた。


 町長である。


「まさか…一回戦から隣町とは…くそ…あそこに負けるわけにはいかん!いかんのだよ!だが、あそこは前回準優勝だったな…」


「まぁまぁ町長、落ち着いてください。今回は今までとは違います。彼がいますから、彼を信じましょう。」


 秘書が宥める。


「ふん、あの生意気な餓鬼が…負けたらただじゃおかんぞ…そうだな…館は没収するか…」


「町長…そしたら間違いなく町長は殺されますよ…」


「ふん!冗談じゃ。くそ!全く忌々しい奴らめ!」


 町長はそう言うと、観覧席に向かった。


「せいぜい期待してますよ、誠くん…」


 秘書もそう呟くと町長の後に続いたのだった。


 そして時は来た。


「それでは長らくお待たせしました!第一試合!大和町対撲滅町!両チーム前へ!!」


 会場にマイクを使った大声量で審判の声が鳴り響く。


 大和町は誠の住む町で、撲滅町は隣町だ。


 アナウンスに続いて、会場の真ん中に誠を先頭に全員横になって並ぶ。


 コロシアムのリングは石でできた円形の地形になっている。


 その広さは半径100メートルにも及ぶ特大なリングである。


 対する相手チームも誠達に続いて並んだ。


「それでは両チームの代表は握手をしてください!」


 誠は目の前にいる誠よりも二回りは大きい、真っ赤な鬼に手を差し伸べた。


 その鬼は筋骨隆々であり、歴戦の猛者を感じさせる男であるも、顔が人に近い事からハーフであることが覗える。


 そしてその鬼は、誠の手を掴むと誠を後ろに強く引っ張って吹き飛ばした。


「おっとわりぃいな!つい力が入っちまった。まさかこれくらいで飛んじまうとは思わなくてよ。がっはっは」


 そいつは誠を吹き飛ばすと豪快に笑った。


 誠は飛ばされながらも、片膝をついて綺麗に着地した。


「ははは、これは面白い。よかったな、一瞬でも見せ場を作れて。」


 誠は負けじと笑いながらそう答えた。


「ほう、くそ生意気な餓鬼だ。まぁしょんべんチビって泣く前にさっさと帰ってママの乳でも吸ってな。」


 誠の態度にイラついた赤鬼は、更に誠を挑発する。


「あいにくと俺に母はいない、無駄なおしゃべりはもういい。負け犬と話す時間は俺にはない。」


「んだとこら!!!」


 赤鬼は誠に詰め寄ろうとすると、流石に審判が止めた。


「これ以上は許しません。やめないと両者失格にします。」


「け!命拾いしたな、くそ餓鬼め。」


 審判の制しに、赤鬼は引き下がった。


 そして一連の状況を見ていた解説者の声が会場に響く。


「これは大変な事になりました!!一回戦から熱い火花が散ってます!果たして勝つのはどちらか!運命のサイコロが今、放たれる!」


 そういうとコロシアム中央にサイコロが降ってきた。


 サイコロは地面に落ちると転がり始める。


 コロコロコロコロ…


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 会場が静寂に包まれた…


   4


 サイコロの目は4だった。つまり代表を選んでの代表戦である。


「なんと!サイコロの目は4!4です!!代表戦だぁぁ!!これは見ものですね!熱いバトルが期待されます。」


 解説者の声が会場に響く。


 そして誠は…余裕の笑みを浮かべた。


「ついてるな…この試合もらった。」


 誠が静かに呟くと、さっきの赤鬼が誠を指差して叫ぶ。


「おい、くそ餓鬼。てめぇが出てくるんだよな?怖いからって逃げんなよ。」


 赤鬼は誠に出るように挑発する。


 そして誠は無視した。


 これ以上バカに構うだけ無駄と判断したのだった。


 相手の赤鬼は火の精霊の使い手であることは知っている。


 経験値も誠より上で前回では赤鬼の活躍によりチームも準優勝していた。


 当然誰もが赤鬼の勝利を疑わない…


 誠はみんなに告げる。


「馬鹿の言う通りにするのは癪だが、俺が出る。すぐ終わる。」


 そういうと、誠はリングに上がった。


 誰一人として、誠の決定に文句を言う者はいない。


 全員が誠ならやってくれると信じていた。


「がはは、どうやらおじけづかずに出て来たみたいだな。安心しろ、負けた事がわからなくなるくらいボコボコにしてやるからよ。」


 そういうと、鬼も誠に続いてリングに上がった。


 二人はリング中央で睨みつけ合う。


「それでは!開始!!!!」


 審判の声が会場に鳴り響き、今まさに戦いの火蓋が切って落とされた…


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