第13話 優しさ

 地獄の合宿を終えた朝、選手達はまた来た時と同じように食堂に集められた。


「皆、よくこの合宿を乗り切った!私の目から見てもお前たちは格段に強くなっている、自信をもっていい。オニンピックは2か月後に迫っている、それまで各自戻ってからも訓練を欠かさず、大会に備えてくれ。最後に誠から一言みんなに何か言ってくれ。」


 秘書がそういうと、誠は前にでる。


「俺からお前たちに話すことはない…がしかし、何も話さないわけにもいかないだろう。確かにこの合宿でお前たちは頑張った、それは俺も認めている。だが勘違いするな!来た時はお前たちはただの卵でしかなかったが、今はひよこになった程度だ。忘れてないだろうな?もしも1回戦で負けたらお前たちは一生奴隷だ。それが嫌だったら残りの2ヵ月間死ぬ気で訓練しろ、以上だ。」


 誠から出た余りにも酷い言葉であったが、震えあがる者はだれ一人いなかった。


 それどころか、これが誠なりの愛情表現とさえ理解しているくらいだ。


 それぞれの選手の目がギラギラとしたものになっている。


 その目が見据えているのは奴隷なんかではない、ただ勝利することへの未来だけだった。


 こうして誠なりの激励によって合宿最後のミーティングは終わる。


 ミーティングが終わり、全員が自分の家に帰ろうとしていたところ、美琴が誠に会いに来た。


「まーこーと。最後の言葉格好良かったよ!」


「は?何か勘違いしてないか?俺はお前らを奴隷にすると告げただけだ。」


「わかってる。ちゃんと誠の事はみんな分かってるよ。気合を入れてくれただけだってね。」


「はぁ…お前と話すと疲れるな…」


「またまたぁ…そんなこと言って、私がいなくなったら絶対寂しくなるよ。」


「わかったわかった。お前こそちゃんと帰ったら今以上に訓練するんだぞ。未だに個人戦闘能力じゃお前は最下位だ。」


「わかってるわよ、そんなこと。だから2か月後、絶対誠をビックリさせてみせるんだから!」


「期待しないでおこう。じゃあ俺は行くからな。」


「うん、また二か月後に会おうね!」


 こうして3ヵ月に及ぶ合同合宿は終わりを告げた。


 この合宿は誠の空白の心に一滴の優しさを与えたのだった。

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