第12話 地獄
あの日以降、合宿の練習場は地獄と化した。
合宿の練習の指揮を誠が取ることになったからだ。
「おい、そこ。誰が休んでいいって言った。気絶するまで休みはないぞ。」
誠は体力が切れて倒れている武蔵を蹴とばす。
グハ!
「ほらみろ、まだ意識があるじゃないか。人生かけてるんだろ?立てよ。」
武蔵は何も言わず、ゆっくりと立ち上がった。
「おい!何を見てる?体を動かせ!」
その様子を見ていたチームメンバーは武蔵に憐みの目を向けるも、直ぐに自分の訓練に戻る。
明日は我が身
そう思うのだった。
しかし、その地獄の訓練の結果、選手達はメキメキと力をつけていき、誰もがそれを実感していた。
何よりも実践訓練における誠の指摘は非常に的を得ていた。
それぞれの選手が自分の悪いところ、伸ばすべきところを明確に把握できたことで合宿前とは比較にならない程に成長している。
当初は誠への恐怖から従っていたのだが、月日が経つにつれて自分の成長を実感し、いまだに恐怖心は消えないものの、恐怖だけではなく信頼も芽生えていたのだ。
そして合宿が始まって間もなく3ヵ月が経過しようとしていた。
今ではチームメンバーは積極的に誠に教えを乞いに来て、会話を交わすようになった。
心を折る事なく訓練に耐え抜いた他の選手に対して、誠自身も見方が変わっていく。
当初はただの雑魚と思っていたが、今では弟子のように感じている。
いびつな形のコミュニケーションではあったが、最初に比べれば大分マシになっていたのだった。
特に美琴に関しては元々積極的であったのもあり、誠自身が驚く程に打ち解けていた。
美琴は誰よりも素直だった、そして誰よりも努力をした。
誠に見てもらいたい一心で彼女は正に死ぬ気で訓練に臨んでいた。
訓練が終わった後も、美琴は自分の何がいけなかった、どうすればいいかを毎回誠に聞きにいく。
その結果、ぐんぐんと能力を伸ばしていき、それは周りの選手が焦るほどだった。
その姿を見た他の選手も恐れながらも誠に教えを乞いにいく。
こうしてチームの戦闘力と誠のコミュニケーション能力は上がっていった。
【合宿最終日の夜】
食堂で食事を終えた誠は自分の部屋に戻ろうとしたところで、美琴に声をかけられた。
「誠!お疲れ様!明日で合宿は終わりだね、私達強くなれたかな?」
「あぁ、来た頃に比べれば大分マシだ、ただ十分とは言えないがな…」
「そっかぁ…誠はオニンピック見に行ったことあるんだっけ?」
「あぁ、4年前に1度見に行ったけどそれなりにレベルが高い。今のお前たちではかなり劣勢だ。」
「そうだよね…」
「だが、ここに来た時のお前たちなら、多分瞬殺されて終わりだった。かなり成長はしてるぞ。」
「ありがと…えっと…」
なぜか美琴は下と向きながらモジモジしている。
「お前は何なんだ?何が言いたいんだ?」
「いや…ちょっと…大会終わったらまたみんな離れ離れだと思うと…ちょっと寂しいかな…」
「そうか?よくわからないなその感情は。それに1回戦敗退したらもれなく全員俺の奴隷だ、毎日会えるぞ」
「そっか!じゃあ負けて奴隷になれば毎日誠に会えるね!」
「お前はバカか!何言ってるんだ…」
「どうせ馬鹿ですよーだ。でももしも勝つことができたらもう会えない?」
「同じ町に住んでるんだ、いくらでも会えるだろ?」
「ほんと?じゃあ会いに行ってもいい??」
「別に構わない。以前なら会う気はなかったがな…俺も変わったな…」
「やった!!じゃあ約束だよ!指出して!」
「は?なんで指を?」
「これはおまじないなの、いいから出して。」
美琴に言われるがまま、誠は指を出すと、美琴が指を絡めて歌いだした。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指きった。」
そういって美琴は指を離した。
「これに何の意味があるんだ?」
「だからおまじないだってば。これをした二人は約束を絶対守るの!」
「ふ~ん、まぁ覚えておくよ。それよりも大会だ、へましたらただじゃおかないからな。」
「大丈夫ですよ~だ!こっちには誠がいるんだから!」
「はぁ…ほんとお前って奴は…まぁいいや。もう寝るぞ。じゃあな。」
「おやすみ!また明日ね!」
そういって二人は別々に自分の部屋に入って眠るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます