第10話 合宿
合宿会場は何もない広い荒野の中にあった。
ちょうど町の北側にある山を越えた場所だ。
そして荒野の中心には、簡素な作りの宿泊施設が建てられていた。
「ふ~ん、ここが合宿場ねぇ…粗末な場所だな…」
合宿所にたどり着いた誠は、馬車を下りると、目の前の宿泊施設を見て失望を現わす。
すると、早速誠を見つけた美琴が息を切らせながら走って会いに来た。
「はぁはぁ…お久しぶりです誠さん、今日から3ヵ月間よろしくおねがいします。」
「おい…そんなんで大丈夫か?せいぜい無理をして倒れないことだな。」
「すいません、走るのは苦手で…この合宿で体力もつけたいと思います。」
「そうか、じゃあまた後でな。」
誠は美琴の挨拶に少ない言葉で返すとそのまま背を向けて宿舎に向かった。
宿舎に入り荷物の搬入が終わると、全員食堂に集められる。
「私が今回の合宿の責任者だ。これから君たちは3ヵ月間ここで互いに切磋琢磨し合い、オニンピックに向けて力を付けて欲しい。今後の予定については全員の挨拶を終えたら話す、それでは個人ランキング1位の誠君から挨拶をしてくれ。」
責任者を名乗る男は町長の秘書であった。
そして一番隅でつまらなさそうになっている誠に向けていった。
「ふん、お前が責任者かよ。俺は誠、お前らと慣れ合うつもりはない。だが足は引っ張るな。以上だ。」
誠が挨拶を終えると、その場に沈黙が訪れるが、その隣に立っている美琴がすかさずフォローする。
「私は美琴!よろしくね!みんな!まだまだ全然弱いけど、この合宿で必ず強くなってみんなの役に立ちます!」
美琴は隣に立っている誠に一瞬目を向けると、挨拶を終えた。
そして次々に選手達が挨拶をしていき、全員の挨拶が終わると秘書が今後の予定を告げた。
どうやら初日に訓練はないらしい。
明日からは毎日、午前中は基礎訓練、午後は戦闘訓練と合同演習だ。
「説明は以上だ、それではみな長旅で疲れているだろう、食事を食べて訓練に向けて英気を養ってくれ。」
そういうと秘書はその場から立ち去っていった。
そして食堂では会食が始まる。
その中で誠はつまらなさそうに一人で食事をしていた。
誠の強さも残虐さも知っている選手達は、誰も声をかけようとしない…美琴を除いて…
「誠さん、隣いいですか?」
「あ?他に行け、沢山空いてるだろ。」
「いえ、ここがいいんです!ここじゃなきゃ嫌なんです!」
「そうか、好きにしろ。俺はもう部屋に戻る。じゃあな。」
そういうと誠は席を立つ。
「待って!」
「あ?なんだ?」
誠はただでさえこの無駄な馴れ合いに嫌気が差していたのに、呼び止められて不機嫌になった。
「えっと…明日からよろしくお願いします!それだけです!!」
「は?それはここに来た時に聞いた。用がないなら俺はもう行くからな。」
そのまま美琴に背を向けて歩き出すと、更に後ろから大きな美琴の声が聞こえた。
「私…頑張りますから!絶対強くなりますから見てて下さい!」
誠からの返事はなく、そのまま食堂から出て行った。
「みことぉ~、あんたほんと勇気あるね。私なんか怖くて近づく事もできないわよ。」
トーナメントで美琴のメンバーだった弓使いが呆然と立ち尽くす美琴に声をかけた。
「うむ、我も彼が怖い…彼は全く他者に関心がない。正直あのオーラを感じるだけで足が震えるのである。」
今度は同じくパーティメンバーの剣使いが美琴の側にきた。
弓使いの名は凛、16歳の美琴よりも4歳年上の女性だ。
そして剣使いの武蔵、ゴツい見た目からは想像できない臆病な22歳の男性である。
さっきまで食堂はお通夜のように静かになっていたが、誠がいなくなるとみんな一斉に話始めた。
みんな誠が怖くて、騒げなかったのだ。
「だって憧れの人だもん!あの寡黙な感じも超素敵!絶対この合宿で強くなって、私の事見てもらうんだから!」
「あんたねぇ…悪い事は言わないからあんまり彼とは関わらない方がいいよ?絶対に酷い目に遭うんだから。」
「我も同感である。」
「ぶぅ~、誠さんはそんな人じゃないよ!みんな酷いよ、噂ばっかり信じて。私は周りの声なんか気にしない!自分で見て、自分で話して、自分で決めるんだから!」
「もう…この子は一度決めたら絶対人の助言なんて聞かないんだから…わかったわ、でも何かあったらすぐ相談しなさいよ?わかった?」
「うん!仲良くなったら紹介するね!」
「我は結構である…寿命が縮まってしまう…」
そして各々は食事と談笑を終えると、部屋に戻り明日に備えるのであった…
一方、誠の部屋では…
「なんだったんだ?あのウザい女は…どうせあいつも俺の力目当ての売女だろ…俺は誰も信じない。俺が信じるのは自分の力だけだ…」
そして翌日から誠を中心とした合宿が始まるのだった。
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