第9話 美琴

 誠は18歳になった。


 既にトーナメント個人ランキングでは一位


 団体戦に出なくてもオニンピックの出場は決まっている。


 幼少期から友人と呼べる者はおらず、家の使用人以外とはほとんど話さずに生きて来た。


   力の前に他者との馴れ合いは不要


   力こそが全て


 これは18年間生きて来た誠が出した答えである。


 誠は自分以外の選手に興味はなかったが、一応今年行われるオニンピックの出場者として、A級トーナメントを観戦していた。


「あいつは…そこそこ使えるな…」


 現在A級トーナメント決勝である。


 誠が注目したのは、鬼族と人族のハーフと思われる、金髪の女性だった。


 その女性は個人戦には参加していないものの、地形を変化させたり、土を操ったりして、周りを補助している状況からも、土の精霊の力を宿していることが分かった。


 個人戦に出てこなかったのはその戦い方にある。


 彼女自身は余り鬼族の血が濃くないのか、フィジカルが弱く、直接戦闘には向かない。


 しかし、補助に回ることでその実力を十分に発揮するタイプだ。


 A級トーナメント決勝戦で出たサイコロの数字は6


 つまり、3対3の合同戦である。


 合同戦では、彼女のいるチームの実力は抜きんでていた。


 他の2名にあっても、弓と刀、つまり遠近がバランスよく分かれており、3人合わさると正に最高のコンビネーションを発揮していた。



「それまで!!」


 審判による試合終了の言葉がコロシアムに響く。


 優勝したのは、やはり金髪の彼女がいるチームだった。


 試合終了後、閉会式が行われ、最後に町長から今後の予定が告げられた。


「本試合をもってオニンピック出場者が決定した。呼ばれた者は壇上へ。」


 次々に名前を呼ばれた選手達は壇上に上がっていく。


 ちなみに最初に呼ばれたのは誠である。


「それでは、栄誉あるこの8人の選手に盛大な拍手を!」


 コロシアム内からまるで夕立の雨のような拍手の音が鳴り響く。


「来週より3ヵ月間、代表選手8名にあっては合同合宿を行う。そこでチームワークを学び、オニンピックで我が町悲願である1回戦突破を目指してほしい!それでは解散!」


(1回戦突破を目指せだと?馬鹿にしてるのか?最初から優勝を目指さないとは…だから万年一回戦敗退なんだよ…)


 誠は町長の言葉に自身の実力を馬鹿にされた風に感じて怒りを覚えた。


 だがしかし、オニンピックは一人だけ最強の者がいたところで優勝するのは難しい。


 それは事実である。


(来週からこの雑魚どもとなれ合うのか…嫌になるぜ…)


 誠は来週からの3ヵ月間を思い、つまらなさそうな顔をしていた。


 そんな誠に声をかけたものがいる…団体戦優勝チームの金髪の女性であった。


「あの…その…私美琴っていいます。」


 美琴と名乗る女性はおそるおそる誠に話しかける。


「なんか用か?」


 誠はめんどくさそうに答えた。


「えっと…誠さんの試合全部見てました。誠さんのファンなんです!握手してください!」


 誠は自分が何を言われたのかわからなかった。


 その女性は顔を真っ赤にしながらも目をギュッと瞑って、誠に手を差し出している。


「お前、変な奴だな。まぁいいだろう、握手くらいしてやるよ。」


 そういうと誠は美琴の手を握った。


 !?


「ヒャ!!」


 美琴は本当に握手してもらえると思っていなかったのか、誠の握手に変な奇声を上げた。


「なんだお前?馬鹿なのか?」


「ごごごごめんなさい!!違うんです。本当にしてもらえると思わなくてビックリしただけです!!」


 そういうと嬉しそうに誠に握られた手を摩っている。


「お前たちの試合を見ていたぞ、悪くはなかった。特にお前はな。」


 誠から急に褒められた美琴はさらに顔を真っ赤にさせた。


「み、見てくれてたんですか!お見苦しいところを見せてすいません!次はもっと頑張ります!」


「うむ、今のままではオニンピックでは厳しいだろう。俺が直々に稽古をつけてやる。」


「ほんとですか!!!私…頑張ります!!」


「それでは、次に会う時は合宿だ。それまでに少しは体を休めておけよ。」


「わかりました!万全の体制で合宿にいけるよう精進します。」


そういって二人は別れると誠は執事の用意した馬車に乗りこむ。


「少しは楽しめそうじゃねぇか、せいぜい足を引っ張らない程度に鍛えてやるか。」


「誠様が他者と話すなんて珍しいですな、あの娘は見所がありましたか?」


「いや、全然ダメだ。だが使えなくもない。俺もコミュニケーションとやらの訓練でも合宿でさせてもらうかな」


 そういうと、誠は幼少期から変わらぬ邪悪な笑みを浮かべるのだった。


 

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