第5話 温もり

少年がモツ煮屋で店主を殺した後、その噂は一気に町中を駆け巡った。


 そしてその少年の下に一人の男が向かう。


 その男は道場を開いている大柄な鬼族の男で、少年の父親のライバルであった存在だ。


「君の名前を聞いてもいいかな?」


 少年はいきなり目の前に現れた男に話しかけられると、やはり煩わしく感じる。


 しかしお腹は膨れているし、そいつを今殺す必要はなかった。


 故に答えた。


「誠…」


「そうか…誠か…いい名前だ。俺は善次郎だ。これから俺が家で面倒を見てやる。寝る場所を用意するから来なさい。」


 男にいきなり家に来るように言われた少年は、考えた。


「家…檻…いやだあああああああああああああああああああああ!!」


 少年は突然発狂した。


 少年のまわりが一気に凍っていく。


 しかし、善次郎は焦らなかった。


 いや、焦るよりも目の前の子供が不憫に見えたのだ。


 善次郎は知っていた、その子供がずっと檻に入れられていた事を…


 優しい彼はその事で何度も誠の父親と言い争いになるもの、遂には誠を助けることが出来なかった。


 善次郎は凍る道をゆっくりと歩き、誠に近づいて来る。


 誠は初めて恐怖を覚えた。


 自分の力を前にして進んでくる者がまるで未知の生物に見えた。


 だが、目の前の男を何故か殺す気になれない。


 その目が…なぜか暖かく感じたのだ。


 善次郎は少年の前に立つと、少年を抱きしめて言った。


「もう怖い思いはしなくていい…しなくていいんだ…」


 少年は目の前の男が何を言っているのか理解できなかった…


 そして少年は…


 善次郎の胸を貫いた…


 さっき感じた暖かさが何か知りたかったのかもしれない…


 殺す気はなかった。


 しかし知りたかった。


「暖かい…」


 少年は手に残った男の血の暖かさを感じる。


「これが…?これが暖かさ?」


 少年は納得した、自分の疑問の答えを知った。


 知ったつもりになった…


 周りはその光景を見て、考えを改めた。


 もう…誰の手にも止められないと…

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