没落作家の一日
@mizgiwha
第1話
朱色月、某日。
私の首には麻縄が巻かれていた。
「失礼します。……何してるんですか、今度は原稿ができてないからって逢瀬で、ですか。」「違うんだ!小豆くん、」編集担当は呆れ顔で肩を竦める。「ではどのようなご事情で」小さな目はビー玉見たく真ん丸くなった。情状酌量を与えられた私は口を開いた。
「私は今まで自分の首を絞めていたようだ」「百聞は一見に如かずですよ。」「確かにそうだ。だが、この麻縄は私が知らない間に巻き付いていたのだ。目が覚めたら…」きっと誰かが私を自殺を装い殺そうとしていたのだ!末恐ろしい。
「先生、これは何ですか。」編集担当が指差した先を見やると、驚いた。棚にしまってあったはずのウォッカの瓶だ。鈍い茶色の奥で朱色の光が火花のように走った。
「もしかしたら昨夜、一人で酔っぱらって判別つかない状態だったのではないのですか。」
確かに昨夜の記憶はなかった。白日は終わらない原稿に勤しんで、そしていつもの私はウォッカをやめて発泡酒か滋養剤を飲んでいた。そのはずだ。編集担当はきっとそれを知らない。二度と首を締めないためには会話が必要である。―それは私が事欠いたことだった―。それでも心の機微がわかる小豆が来てくれたのは九死に一生であった。
「すまなかった。」麻縄に手をかけたところ、先に鋏で絶たれ、縄は床に落とされた。
「本当に、すまない。感謝を申し上げたい。」「先生ならできると思うので早く原稿仕上げてくださいね。では失礼します。」
部屋の扉が締ったのと同時に、酒を締まった棚もガタリと声を発した。
没落作家の一日 @mizgiwha
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