第36話 手術

1年と数ヶ月が過ぎた。





美樹は3ヶ月前から職場復帰をした。


友希とは。

時々、緊急オペや胸部外科のオペで一緒になった

機械出しをしてもらったこともある

贔屓目ではなく、相性は良いと思う

オペが、やりやすい

先を読む力も状況判断も優れている。と思う



だから、兵藤師長からその話があった時は異議を唱えなかった


あとは本人が承諾するかどうか





そろそろ梅雨明けしそうな天気の

その日


看護部長室にて


看護部長・副部長・オペ室師長の面々と


緊張しまくりの、友希がいて


兵藤師長が口火を切る


「急なお願いで申し訳ないんだけど、後藤さん、来月アメリカへ出張お願い出来ないかしら?」


「は?」


「祥子センセイの手術に入ってほしいの」


「へ?」


友希が、こっちを見たので

ホントだよ。の意味を込めて頷く


「去年までは河合さんにお願いしてたの。で、今回は中根さんにお願いしようと思ってたら、ほらこの前、手を怪我しちゃったでしょ。だから、後藤さんお願い」


「いえいえ、私なんて無理ですよ。そんな大事な手術に入るなんて...」


「そう?出来ると思うんだけど」


ブンブン首を横に振る


「看護部長、どうしましょう」


「困ったわねぇ、どうしても駄目かしら?」


「か、看護部長、、」



見かねて、口を出す


「あ、大丈夫ですよ。こんなに嫌がってるんだから。今回は看護師いなくても。向こうでどなたか入ってくれると思うし」

「でも、アメリカの人じゃぁ、言葉とか いろいろ大変じゃないですか?」

「大丈夫ですよ、、たぶん。。どうかな?いや、どうにかしますから。すみません、ご迷惑かけて」



「あ、あの...」


「ん?」


「私、行きます」


「ホントに?」

「いいの?」

「無理しなくていいよ」


「やらせてください。お願いします」



「はい。じゃ、お願い!決まりね」

「はい。解散」

「よかった」


御三方、ニヤニヤし過ぎですよ

バレますって


「え?」


友希が、またこっちを見るから

「ん?」


「もしかして、嵌めました?」


「ん?何の話?友希ちゃんなら、引き受けてくれると思ってたよ。よろしくお願いします」


頭を下げる


「あ、こちらこそ宜しくお願いします」


「ちょっと覚えてもらうことあるけど、ちゃんとフォローするから」


「はい」


「じゃ、とりあえずパスポート、なかったら取ってきて。経費で落ちるから」


「は、はいっ」


あ、ちょっとワクワクした?

相変わらず、表情がコロコロ変わる

こういうとこが、可愛くて好きだった

否、まだ好きだ



「ちなみにさ。今回の人選は、私からじゃなくて師長からだからね。自信もっていいんだよ」


「...ご期待に添えるよう頑張ります」




【Yuki side】


看護部長室に呼ばれた時にはビビりまくっていた


何を言われるの?

私、何かした?


部屋に入ったら、何故か、しょうちゃんもいて


話を聞いたら、これまたとんでもない話で


無理無理〜って思ったんだけど

結局、やります!って言ってしまった


しょうちゃんが困ってるの見たら

どうしようもなくなって

少しでも力になりたくて


どうやら、私の性格を知っていて

グルになって、あぁいう言い方をしたみたいだけど


それでも、少しでもしょうちゃんの役に立てるなら、頑張りたいと思う


だって

ずっと好きだから


自分から離れたんだから

しょうちゃんを傷つけてしまったから

そんなことは口が裂けても言えないけど


もっと自分に自信を持てるようになったら、いつか...


そのために貰ったチャンスだと思ってやってみよう




しょうちゃんから

「とりあえず、これ読んで。わからないところあったら聞いて」と

分厚い資料を渡された


1ヶ月あるから。と思ってたら

あっという間に時間は過ぎて

その日を迎えてた


団体で行くのかと思ったら、バラバラで行くのね


「もしかして、海外初めて?」

不安そうな顔をしてたらしい

「一緒に行こうか」

と言ってくれたので

しょうちゃんと初めての旅行だ

仕事だけど・・・



※※※



いきなり海外だもん

不安になるよね


渡航までの1ヶ月でバタバタと、あれこれ覚えてもらったり、シュミレーションしたり

大変だったね


でも私は、ちょっと楽しかったんだ

会話する口実が出来たから

2人でいる時間が増えたから

もちろん、そんな気持ちは一切出さないようにしてたけど


だから、出発が近づいて

不安そうな顔を見た時

言ってしまった

「一緒に行こうか」って


「はい」

って、即答してくれた時は

嬉しかったんだ

一瞬、目眩がするほどに


駅で待ち合わせて、中部空港へ

成田で乗り換えシカゴまで


海外は初めてらしいけど

「飛行機は初めてじゃないよね?」


「さすがにそれは、ありますよ。北海道に何回か」

「へぇ、私、大学は北海道だったよ」

「え?そうなんですか?意外です。ずっと地元かと思ってた」

「地元の大学だったけど、辞めて入り直した」

「知らなかった...」

「過去の汚点は、なかなか話せないよ」

好きな子には特に


「汚点、なの?」

「私さぁ、本番に弱くて...高校も大学も受験に失敗してる。高校は滑り止めの私立だし。大学も滑り止めに入ったけど、やっぱり諦めきれなくて、結局浪人した」

あれ、なんでこんなカッコ悪い話してるんだろ


「エリートコースまっしぐらだと思ってた」

「逆エリートコースだよ」

「努力の人なんですね、なんかカッコいいな」

え、カッコ..いい?


「そ、そんなことないよ..」

顔が..熱い..





「寝れた?」

「少しだけ」

「私も。機内ではあんま寝れないな」


まずはホテルにチェックイン

ここでトラブル発生

友希の部屋がダブルブッキング

交渉するも

あいにく他の部屋も空いてなくて


「友希ちゃん、私と同じ部屋でもいい?」

「え?」

「無駄に広い部屋みたいだから、2人でも支障ないと思うんだ。あ、誓って何もしないから」

「ご迷惑でなければ、私は大丈夫です」

「良かった。じゃ、そういうことで。行こ!」


「あの、ありがとうございました。交渉してもらって。英語も勉強しなきゃ」

「ん」



部屋に入ると

「まじで、無駄に広い」

ちゃんとベッドも2つあるし


「なんか普通に旅行みたいだ...」

私が思ってたことを、友希が言葉にした


「疲れたね、今日はもう何もないから、ゆっくりしようか」


「はい」

友希は荷物の整理を始める


『ピンポーン』

誰か来た



「ホテル側から、お詫びのフルーツ盛り合わせだって〜」


シャインマスカット、一粒食べてみる

うまっ


「はい!って、友希ちゃん何してるの?」


「スーツケースが開かなくて!あ、今、無理」


両手が塞がってたから

「じゃぁ、あ〜ん」

つい、調子に乗ってしまった


「あ、」ぱくっ

食べた


「あま〜い」


一瞬、視線が絡み合った


けれど

すぐに逸らされ


「あ、開いた〜」

「良かった良かった」




翌日からは、仕事モードに入る


遅くに部屋に戻り、友希の寝顔を見て

自分のベッドに入る

コーヒーの香りで目が覚める


一緒に暮らしたら、こんな感じなのかな


妄想くらい、いいよね?


ホテル側から、部屋が空いたと連絡があったけど、このままでいいと返事をした


これは、私の我儘だ。ごめん



そして、オペ当日になった。




【Yuki side】


初めて日本を出る

やっぱり国内旅行とは、わけが違う


こんなにいろいろ手続きがあるなんて

って、私なんにもやってないけど...

しょうちゃんの後をついていくだけ


そして、時間が長い

こんなにも長い間、そばにいられるなんて、いつ以来だろう

仕事だけど...


思いがけず、ホテルの部屋も一緒になった

入った瞬間「なんか普通に旅行みたいだな」と思っちゃった



スーツケースが開かなくて

え?なんで?開かないと困るよ〜

ワタワタしてたら

しょうちゃんがアーンしてくれた

甘い葡萄

恥ずかしくて

顔を直視出来なかった


2日目からは、一気に仕事モード


しょうちゃんの帰りは遅い

気疲れもあって、先に寝てしまう日々

せめても、と思い

朝はコーヒーを入れる


「おはよ」「ありがと」と、その笑顔で、一日頑張れる



そして、オペ当日。



いつもより早く目が覚めたけど

しょうちゃんはベッドにいなかった


まだ薄暗い中

白衣を着て、バルコニーに立っていた

目は閉じていた

右手は、ギュッとポケットを握りしめてる


緊張、、してるのかな?


綺麗だなぁ

容姿だけじゃなく、凛とした雰囲気が...

しばらくの間、見惚れてた


そうだった

ホントは、いつも自信満々なんかじゃなくて

謙虚だけど、真摯に向き合ってて

傷つきやすい一面もあって

真っ直ぐな人


私が好きになった人は、そんな人



そっとドアを開ける


音に気付いて振り向いた

「おはよ」


「何してるんですか?」


「ん?イメージトレーニング」


「ドラマの真似ですか?」


「ふふ、バレたか。もうすぐマジックアワーだよ」


「明るくなってきましたね」


「今まではさぁ、院長に頼まれてやってたんだけど、今回は初めて自分から志願したんだ...だから、力を貸して欲しい」


「もちろん。精一杯頑張ります」


かすかに震えているような気がしたので、しょうちゃんの右手を両手で包む


「ありがと」





手術は無事に終わり

私たちオペ室の看護師はお役御免となり


ここで知り合った看護師さん達と、観光でもしようか

という話になった


しょうちゃんは、術後管理で数日は病院へ行くらしく、さっき出て行った


出掛ける準備をしていたら、スマホが鳴った


しょうちゃん?


「ごめん、友希ちゃん。白衣忘れちゃった」

「あ〜ありますね。届けます?ちょうど待ち合わせが病院の玄関だし」

「ありがとう!助かる」


白衣を持って、出ようとしたら

コトン!

何かが落ちた


ボールペンだった

私とお揃いの

告白してくれた時のもの


ポケットに入ってたのか

胸がキュンとなった



※※※



術後の管理も終え

帰路につく


「また長いフライトだね」

「帰りは寝れるかなぁ」

「疲れてるから、寝れるような気がする」


「センセイ、結局観光なしですよね」

「うん、いつもこんな感じ。だから海外旅行は未経験と言ってもいいくらいだよー。そーだ!シカゴの街どうだった?」

「凄いオシャレでしたよ!建築物とか公園とかも。美術館も良かったなぁ」

「へぇ、いいなぁ」

一緒に歩きたかったな


「良かったら、コレどうぞ。平凡ですが、ポストカードです」

「いいの?ありがと。大切にするよ」


「センセイ、もし観光だけで海外行くならどこがいいですか?」

「ん〜オーロラが見たいかなぁ、カナダとかかな」

「あ〜いいですねぇ。そういうの、好きですよねぇ」

「うん、好き。宇宙とか星空とか...」

「行けるといいですね」

「うん」

二人でね。


「でも」

「休み、取れないね」

「現実ですねぇ」





「寝れた?」

「まぁまあですね」

「良かった。友希ちゃん、今回はありがとね」

「いえ、こちらこそ。結局最後までご一緒していただいて、ありがとうございました」

「じゃ、また」

「はい」


仕事が終われば

それぞれの家へ向かう

これも現実


いくら妄想してみても

これが現実。






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