第37話 急性腹症

久しぶりにオペに入った

友希の顔が見られるかと思ったけど、今日はいなかった


オペ後、師長と話してたら

「おつかれさまでーす」と、友希が入ってきた


そっか、今日は遅番だったか


久しぶりに顔を見たら

ん?あれ?なんか


「友希ちゃん、体調悪い?」

「え?そんなことないですよ」

「そっか、顔色悪いような気がしたけど、、気のせいか」

「あ〜ちょっと寝不足かも...」


「夜遊びし過ぎなんじゃないのぉ?」

美樹が会話に入ってきて

「夜遊びなんかしませんよぉ」

と、言いながら、オペ準備を始めてた



2日後...


「祥子センセイ、救急お願いします!大至急!!」


師長が叫ぶ


いつもは冷静な師長なのに、どうした?

急いで行くと


「友希?」

痛みで顔が歪んでる


「急性腹症です」

師長が言う

「わかった。友希ちゃん、ちょっと診せてね」


その間にも、スタッフは点滴や検査の準備を始めてる

師長はあちこち連絡を入れている


「友希ちゃん、妊娠の可能性は?」

ピクリと反応し、首を横に振る

「ごめんね、最初に確認しなきゃいけないことだから」

痛みを我慢しながら微かに頷く


「エコー準備して」

「はい。センセイ、鎮痛剤は?」

「ん〜、原因ハッキリするまで待って」

「友希ちゃん、絶対治すから、ちょっとだけ我慢して」


エコーを操作する

これは...


「師長、婦人科に連絡して結城センセイ呼んで」

「はい」

「鎮痛剤投与して」


「師長、点滴が入りません」

看護師さんが言う

「あ、いいよ私やる」

「え?センセイが?すみません」




【師長side】


救急で運ばれてきた彼女を見た時は驚いたけど

すぐに祥子センセイを呼びに行けるくらいの冷静さはあったようだ


『急性腹症』であることを告げたので

後の処置はセンセイに任せて

オペ室の師長に連絡して

家族にも連絡取ってもらう


エコーで原因が確認出来ればいいけど...


婦人科の結城センセイを呼ぶよう言われ

連絡をする

本人は捕まえられなかったので伝言をしていると


「師長、点滴が入りません」と若手ナースが助けを求める声


「あ、いいよ私やる」

って?センセイ?


ほら

ドクターは、滅多にやらないから

看護師が恐縮しちゃってるじゃん


まぁ、患者が後藤さんだから、しょうがないか


かなりの激痛だったみたいだけど、鎮痛剤がちょっと効いてきたかな


『おつかれさまです、婦人科でーす』

と、やってきたのは若い男のドクター


『お腹痛いんだって?どれどれ』

と、患者に近づく


「触らないで!」

あまりに大きな声だったので


一瞬、誰が発した声かわからなかった

婦人科ドクターは、固まってた


他のスタッフも動きが止まり

後藤さんも驚いてた


「しょうこ..センセイ?」

いつものセンセイからは想像出来ない


「結城センセイを呼んだんだけど」

『今、カンファレンス中で...』

「誰?」

『あ、僕は研修医の松井です』

「そのまま、触らないで待ってて」

と言うと


電話をかけながら席を外す

「・・・」

「・・・」


静まり返っていたので

微かに聞こえてくる


「...なんで研修医寄越すの?カンファなんかいいから、すぐ来て‼︎」


やっぱり今日は普通じゃないなぁ


しばらくして

「来たよ〜あ、松井くんもういいよ」

結城センセイがやってきた



結城センセイは、入ってくると

まず患者さんの顔を見る


「あれ?オペ室の?」


「薫、エコーの画像見てくれる?」


「うん」

「ちょっと待っててね」と言い残し

患者の元を離れる


「どう?」

「卵巣だね、この大きさだとオペだね」

「残せるよね?」

「それは、見てみないとなんとも」

「いや、絶対残して!薫なら出来るでしょ」

「祥子、何言ってるの?」


センセイたち、ちょっと声大きいよ

聞こえてるから


「祥子、ちょっとこっち来て」

結城センセイが別室へ連れ出す

「どうしたの?何かおかしいよ」

「助けて..ほしい...」

「助けるよ。だから、開いてみて必要だったら切る。いい?私たちは神じゃない、ただの医者。忘れないで.....私から説明するから。行くよっ」



結城センセイは、後藤さんの元へ行く


祥子センセイは...離れた場所でうなだれている



「後藤さん、婦人科の結城です。あ、祥子とは同期なの」と言って微笑む

「同業者だから、率直に言うね。お腹の痛みは『卵巣嚢腫の茎捻転』だと思う。大きさ的に自然には戻らないと思うから、オペした方がいい。出来るだけ温存したいと思ってるけど、、状態によっては切除の可能性もある。わかるよね、卵巣の片方を失くす可能性がある。オペに同意してもらえる?」


「...はい」



祥子センセイは、話の途中から

立っていられなくなり、壁際で

うずくまってしまっていた



「師長、準備お願い。オペ室はもう確保してあるから」

結城センセイが指示をする


そして祥子センセイに向かって

「ほら、行くよ」

と言う


「オペに入ってもいいの?」

「助けるんでしょ?」

「うん」

「誰が?」

「私が...」

「じゃ、準備して」

「はい」


〜〜〜


【Yuki side】


それは、なんとなく

いつもと違う目覚めだった

ふわふわしてて

目覚めたいような

目覚めたくないような

不思議な感覚


瞼を開けたら

大好きな人の寝顔があった

しっかり私の手を握りしめている


ふふっ

また瞼が重くなってきたので

そのまま閉じた





「...うさん...ごとう..さん」


あ、師長?

あぁ、そっか

手術、したんだ。


「しちょ〜!なんかすみません」


「なんで謝るの?良かったわ、無事で。センセイ呼んでくるから」




「友希ちゃん、気分どう?」

「しょう..こセンセイ、なんか良い感じの夢見たんで、気分は良いです」

「そうなんだ」

「センセイ、寝ました?酷い顔してますよ?」

「え?」

「嘘です」

でも、憔悴はしてる


「ごめん、卵巣...守れなかった」

「私を...守ってくれたんですよね?ありがとうございました」

「友希...」



翌日には婦人科病棟へ移動し

結城センセイが主治医となった


なんというか、綺麗なんだけど、とってもサバサバして豪快な人だ



一週間後


「順調だね、明日抜糸したら退院ね」


「はい、ありがとうございます」


「綺麗に縫ってあるなぁ。縫合だけは、祥子に負けるわ。それにしても、こんな綺麗なの見たことないわ。愛を感じるねぇ」


「え?」


「見たでしょ?あの取り乱しよう。祥子の中では、まだ終わってないんじゃないかな?

人生、2度目の恋 進行中ってね。

あ、1度目の恋については?」


「聞いてます」


「そっか、よかった。あーでも本人に言ったら『2度目の恋じゃなくて、最後の恋だ』って言いそうだ」


「結城センセイ、想像力凄い!作家になれますよ」


「いいねぇ、印税で暮らしてみた〜い!書いてみよっかな」


“2度目の恋”

タイトル、平凡だなぁ。。と呟いてる

本気なのかな?


「あ、細胞診の結果は、分かり次第連絡するから」

「はい」





オペ後は、両親が来てくれたけど

経過も順調だったので帰ってもらった

退院は1人でタクシーで帰った


夕方、食料をいっぱい持って、美樹さんがやってきた


「とりあえず、これだけあれば何とかなるっしょ」

「え?なんで?」

「なんでって、何?嫌なの?」

「とんでもない」

「え?もしかして、私のこと嫌い?」

え?なに?なんで?どんどん近づいてくるから、後退ってたら。あ。

これ、壁ドンってやつ?


「私はこんなに好きなのに」

「へ?」

ふっふふっぷはっあはは

「ごめん、冗談、面白いわぁ、友希ちゃん」

「もぉ〜やめてくださいよぉ」


「ごめん。でも、そろそろ敬語やめてよ、1コしか違わないんだから」

「え?そうなんですか?」

「は?私をいくつだと思ってたの?もぉ〜」


ふふふ

「そっか。。ん?」

何かニヤついてる


「なるほど、確かに笑った顔はヤバいくらい可愛いな」

「もぉ〜またからかうの?」

「違うよ、祥子さんが言ってたの。あ、酔っ払ってた時ね」

「え?」

「あの時、ずっとのろけてたんだから。さいあく」

それで、あぁいう態度だったんだ!


「さて、じゃ帰るけど。大丈夫?」

「はい。ありがとうご...ありがと」

「私も...胸、取ってるから。分かるよ」

「美樹さん」

「それ、美樹ちゃんでヨロシク」

「あ、うん。美樹ちゃん、ありがと。」

「オッケー」



〜〜〜


「しょうこちゃ〜ん」

「なに、その呼び方やめてよ」

薫が来るなんて、嫌な予感しかしない


「今日、早く終わる?」

「うん。ご飯行く?」

「行きたいけど、今日当直なんだぁ」


「は?じゃ何で来たの?」

「コレ、細胞診の結果出たから。本人に伝えて欲しいの。早い方がいいでしょ?」

手渡された紙を見る。


「わかった。ありがと」

「よろしく」


「あ!そうだ」

「何?」

「あの、研修医くんに謝っといて。怒鳴ったこと」


「あぁ、びびってたね」

「うん。でも...勝手に触ろうとしたんだもん、私の...患者に」

「患者にねぇ」

「痛がってる患者に無闇に触れたらダメでしょ?」

「そーだね、言っとく」


「ごめん」

「ふふ、可愛い♪」


「え?なに?何か企んでるの?」

「ねぇ、今度いろいろ話聞かせて!本書くから」

「は?何の話?」

「いいからぁ」



〜〜〜


久しぶりに訪れる、友希の部屋

今日は事前に連絡済み


ピンポーン


「お邪魔します。あ、これ差し入れ」

「ありがとうございます」

「冷蔵庫入れていい?あ、結構入ってるね」

「美樹ちゃんがいろいろ買ってきてくれて」

「そっか。1人で大丈夫、、そうだね」

「はい」


「先に話していいかな?検査結果」

「はい」

「細胞診の結果、陰性でした。良性です。」

ふぅ

小さく息を吐き

「ありがとうございました」

じっと、検査データを見る

「ん」



「コーヒー、淹れますね」

「あ、ありがと」



微かな香りと

コポコポという音が

私の中の何かを刺激する


思わず背後から抱きしめる

「ごめん、ちょっとだけ」


一瞬ピクリとしたけど

そのまま動かないでいてくれる


「良かった。ホントに良かった。」


「・・・」


友希の手が、私の手に触れ

ゆっくりとほどき、振り返る


「ごめ...」

言い終える前に唇が触れた

え?


今までで1番甘く

今までで1番長いキスをした


「ホントはずっと好きだった。私から別れてって言ったのにごめんなさい。今回のことで死を意識して、そしたらやっぱりホントに好きな人と一緒にいたいと思った。我が儘でごめん...」

俯きながら話す友希の頬に涙が伝う


指で涙を拭いながら

「我が儘でいい。我が儘がいい。友希の我が儘ならウェルカムだよ。あ、でも、別れてって言うのはナシで。。ずっと後悔してた。別れを受け入れたこと。。。

もう一度やり直そう」


今度は、しっかり抱きしめる





「ねぇ、しょうちゃん、私にして欲しいことない?何かしたいよ」

「ある。友希のご飯が食べたい」

「うん、わかった」


「友希は?何して欲しい?」

「一緒に行きたい場所がある」

「わかった」

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