第35話 オペ室

「うわっ」

「びっくりした」

「こんなとこで」

「ホントに」


友希がオペ室に移動して2ヶ月


緊急オペの時に見かけることはあったけど、話すことはなかった


こんなところでバッタリ会うとは


「なんか調べ物?」

「あ、はい」


ここは病院敷地内に立つ研究棟の中にある図書室

専門書が多いけど、看護研究をまとめるために看護師さんたちもちょくちょく利用してるようだ


「センセイは...」

「・・・あぁ、心臓外科の方に、ちょっと力入れようかと思って勉強中」

「そうなんですね。あ、じゃぁこれで」

「うん」




「何を探してるの?」

さっきからずっとウロウロしてるので

しばらくは眺めてたんだけど

思わず声をかけた


ビックリしたように振り返るから

「ごめん、まだいた」

「え?」

「いや、まだいたの?っていう顔してたから」

「そんなことは...」


「で?」

「あの...術式の...」

「ん?何の?」

「・・・」

「もしかして、全部?」

「あ、大丈夫です。自分で探します」



慣れなきゃいけないのかなぁ

“センセイ”と呼ばれることも

この距離感も


「エリア的には、この辺りだと思うよ」

と言って、その場を離れた


自分の資料を集めながら、何冊か選んだ

「消化器と呼吸器は、この辺りどうかな?」

「あ、ありがとうございます」


すでに机の上には、たくさんの本が積まれてた


がんばれ。

心の中で呟いた





オペ室の兵藤師長に話があって、日勤が終わった頃に行った


「あれは何やってるの?」


空いているオペ台の隣で、器具を広げて

何やらブツブツ言っている、ゆきがいた


「あぁ、そろそろ直接介助に入ってもらおうと思って」と師長が教えてくれる


「それでか...」


「ん?」


「この前、図書室で勉強してたから」


「へぇぇ、最初は誰でも不安だもんね」


「ねぇ、師長・・・」







その数日後

師長の提案で、オペ室の看護師さん対象に勉強会を行うことになった

時間外なので希望者のみ


救命はいろんな病気を扱うので専門性はないけれど、その分だいたいの科をカバー出来るはず



全ての科、全ての病気に対応する看護師さんって、ホント凄い。

と、いつも思う



急な開催にも関わらず

7名が参加した

もちろん、友希もその中にいた



オペ室での看護は

直接介助(機械出し)、間接介助(外回り)とも

覚えることが多いけど

覚えてしまえば、それほど難しいことはない


一通り説明したら

質問の時間を多く取る

些細な疑問も重要な、看護師さん同士の情報交換になる

有意義な時間になればいいな



終了後、美樹が言う

「センセイ、ご飯行きません?」


「いいねぇ、行こっか」


みんなで行くことになったけど


「あ、私はちょっと..」

と、遠慮する友希に


「え〜行こうよ、友希ちゃん」

「そうだよ〜」

「私、たぶんこれが最後だから、行こ!友希ちゃん」


「「え?」」


「実は、オペの日程が決まったので、来月から休職しまーす」

美樹の突然の報告


「じゃ、そういうことで」


プチ送別会となった



美樹は

ホントはみんなに言わずにいようと思ったのにな。と

私にだけ聞こえるように呟く


「それじゃみんな寂しがるよ。すぐ戻ってくるんでしょ?」

頭ポンポンしたら

腕を組んでくるから

さりげなくほどく


「ちょっとそこ、何イチャついてんの?」と突っ込みが入り

「私も〜」と他の看護師さんにも腕を絡められる

誰か止めてくれ〜


看護師さんたちの、仲の良さが伝わってくる

ちょっと羨ましい

ゆきも笑ってた



「センセイ、今日はありがとうございました」

帰り際、友希にお礼を言われた

「わからないことあったら、いつでも聞いて」

「はい」

「そういえば、友希ちゃんって呼ばれてるんだ?」

「美樹さんが言うから」

「いいじゃん、私も呼んでいい?」

「.......はい」






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