第30話 3月5日

3月に入って、少しずつ寒さも和らいできていた


最近また忙しくなって、会えない日が続いていた

今日だけは、なんとかして会いに行きたかった

遅くなっても今日中に



「やばっ、もうこんな時間」


取るものもとりあえず目的地へ向かう


「あ、そーだ」


スマホを取り出し電話をかける



〜〜〜



『まだ起きてる?』

しょうちゃんからのライン

時間は23時


どうしようかな

待ち侘びてた連絡なのに

素直に喜べない


待たせすぎだよ


『起きてるけど?』

不機嫌さ、伝わるかな



すぐに着信

「ごめん、こんな時間だけど行っていい?」


「もう遅いから」


「すぐ帰るから」


「・・・それが嫌なの。すぐ帰るなら来ないで」


「・・・わかった。ごめん」


わからないでよ

来ないでって言われても来てよ

矛盾?

我儘?


わかってる

しょうちゃんは、嫌がることはしない


時計を見る

23時36分


『やっぱり会いたい』

メッセージを送る


賭け

23時59分までに会えたなら。




〜〜〜



来ないで!って言われて

動けなくなった


行きたいのに行けない

だからといって帰りたくない


わかってる

また泣かせてしまった

いつも寂しい思いをさせてるってこと


サイテーだ


スマホが短く震えた

ラインだ

『やっぱり会いたい』


すぐにエンジンをかけた



誕生日が終わる前に会うために。



※※※



「ねぇ、しょうちゃん。なんで誕生日知ってたの?言ってなかったよね?」

さっきまで抱き合ってた余韻を残しながら答える

「好きな数字聞いたら、3と5を選んだじゃん」

「え?それだけで?5月3日かもしれないじゃん?」

「いつも占いで魚座を見てたから」

「そっか」



「ねぇ、しょうちゃん。あのケーキ、あのお店のだよね?『Schatz』」

「うん」

「こんな時間までやってたの?」

「電話したら開けてくれた」

「なんで?よく行くの?」

「2回目だよ」

「何か話した?」

「友希は、ちょくちょく来るって言ってた」

「あ、うん」

「知らなかったな」

「ケーキもだけど、コーヒー豆が気に入って、分けてもらってた」

「誘ってくれれば良かったのに」

「会わせたくなくて」

「ん?」

「あの人、しょうちゃんのタイプだから」

「は?」

「あぁいう、可憐で可愛い感じの人が好きでしょ?」

「そーなの?かな?タイプなんて意識したことなかったけど。そんなに心配?」

「ごめんね、そういうの重いね、私。」

いや、不安にさせてるのは私だ

「じゃ、今度行ったらケーキ買ってきてよ!ここで一緒に食べよう」

「うん」

「出来るだけ2人の時間を作るように努力するから」

「・・・うん。私も、もう少し強くなれるように頑張る」





思えばこの頃から

友希は無理をしてたのかもしれない



それでも...

今日はこの言葉を贈りたい

『生まれてきてくれてありがとう』



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