第29話 バレンタイン(後編)

病状も落ち着いてきたので

特別に面会を許可したら

いかにもって男たちがワラワラやってきた

どんだけ慕われてんだよ


「すみません、面会は1人だけ、短時間にしてください」


「はい」

1番年長の男性が入っていった





「そろそろ一般病棟に移れそうですか?」

西尾センセイが聞いてくる

担当は私に任せてくれたけど気にしてくれている

ありがたい


「大体は順調に回復してるんだけど、腎機能が気になって。尿量が少ない気がするんだよね。もう1日様子見ようと思ってる」


「慎重ですねぇ」


「そう思う?西尾センセイなら、もう移す?」


わからなかった

普段だったら気にしない程度のものなのか

申し送りすれば外科病棟でもフォローしてくれるだろう

理由をつけて自分が診たいだけなのか

過去の約束に縛られてるだけなのか


「ん〜“気になる”っていう感覚は尊重した方がいいと思いますよ。そういうの僕もあります。知り合いならなおさら。何もなければそれでいいんだし。幸いベッドにも余裕あるしね」


西尾センセイ、考え方もイケメンだわ



「まぁ、そういうわけで、明日もう一度腎機能チェックして、その結果で一般病棟に移るかどうか決めるから、もうしばらくここで我慢して」


一応、病状を噛み砕いて説明したけれど

わかってるんだか。

心ここに在らずって感じの綾


「ねぇ、もう一度やり直せないかな?」


「ん?なんのこと?」


「もちろん私たちのことだよ、どう?」


「何かあった?今日も仕事関係の人来てたよね?何か言われたの?」


「・・・また交番勤務だって」


「・・・そう。・・・また、あそこから上を目指すんでしょ?」


「そうだね、しょうを振ってまで選んだ仕事だからね、諦めないよ」


「ん」


「そういえば、唯ちゃん覚えてる?もう高校生だよ!医学部目指してるって言ってた」


「...懐かしいね」


「うん...あのさ....勝手に出て行ってごめん」


「いいよ、もう」



「あ、それから。私を刺した犯人も、しょうが助けたって?」


「あぁ、うん…ごめん」


「ありがとう」


「え?」


「あいつ撃ったの、私の相棒で。あ、もちろん仕事上の相棒ね!だから...死なせないでくれてありがと」


「仕事だから」



コンコン

『おじゃましてもいい?』


「あ、一美」

「え?誰?なんで?」


『ちょっと、誰?じゃないでしょーが』


「わ!級長、副級長だ」


「それはまた、懐かしいな」



【一美side】


「おじゃましてもいい?」

なんだか、ちょっといい雰囲気じゃない?


「あ、一美」

祥子とアイコンタクト


「誰?なんで?」

は?


「ちょっと、誰?じゃないでしょーが」

綾ってば、私のこと忘れたの?


「わ!級長、副級長だ」

思い出したか

そう、高校時代、祥子が級長で私が副級長だった


「それはまた、懐かしいな」

祥子はクラス会にも参加しないからなぁ


「あ、私仕事に戻るから、あとよろしく」

ちゃんとドクターに見える

あ、本物か!


「それで?何しに来たの?」


「はい、コレ。タオルとか着替えとか洗面道具とか要るかと思って。あ、妹がココの手術室の看護師でね聞いたの」


「あ、ありがと。助かる...もしかして、本当は、しょうに頼まれた?」


「ん?う〜ん。実はそう」


「そっか。相変わらず仲良いんだ。昔から好きだったもんね?」


「好きだよ〜悪い?同じくらい綾のことも好きだよ〜」


「何言ってんの?高校の時、目の敵にしてたじゃん」


「そーだったっけ?」


「そーだよ」


「もう、祥子のことは、そっとしておいてあげてよ!付き合ってる子いるからね」


「そうだろうね、もう私とのことは過去のことになってた」


「綾、元気になったら、飲みに行こうよ」


「うん」





部屋を出て、帰ろうとした時


「一美さん?」


「あれ?友希ちゃん?白衣姿でわからなかった〜」


「あの、しょうちゃん大丈夫ですか?」


「ん?もしかして、話してないの?」


「はい。綾さんのことで頭いっぱいみたいで」


「はぁぁ、不器用なとこ変わってないのかぁ。大丈夫だよ!より戻したりなんかしないから。私がさせない」


「え?」

「ん?」


「あの、ちょっとお願いしたいことが...」




ここでいいのかな?

あ、いた!


「祥子」


「あれ?一美どうした?」


「メッセンジャーです」

と言って、ケーキの箱を渡す

「友希ちゃんから」


「え?開けていい?」


「うん、私も見たい」


美味しそうなチョコレートケーキ

手作りじゃない?


「バレンタインか...」


「ねぇ、まさか迷ってるんじゃないよね?」


「へ?迷うって、何を?」


「何って。いや、だから。わからないならいいや。それより、これ一緒に食べようよ!」


「やだよ、私にくれたんでしょ」


「はぁ?ホールだよ?1人で食べる気?」


「食べるよ」


「あ、そ」


「今度、何か奢るからさ」


「わかった。ちゃんと話してあげなよ」


「うん。ありがと、一美」


やっぱり私は、祥子に甘い


※※※


検査データを確認し

外科病棟へ移すことにした


「ちゃんと言うこと聞いて、とっとと退院してね」


「それ、患者に言う言葉?」


「綾に言ってる」


「しょう!もう会わないから。。。二度と刺されるなんてゴメンだもん」


「ん」


だから、最後に...

そう言って

綾は私を抱きしめた


ありがとう...

そう囁いた。気がした


私も腕を、綾の腰にまわす

痛みが出ないように、そっと。



「ねぇ可愛いね、彼女。見てるよ!」


「え!?」


驚いて、身体を離し振り向くと


車椅子を準備して待ってる

友希がいた


うわっ、なんで...



「そろそろいいですかぁ?佐伯さん、行きますよ〜」


「はぁい」



【Yuki side】


その日の申し送りで、佐伯綾さんが外科病棟に移る事を知った

その日は担当だったので、簡単なサマリーを書き、移動の準備をする

本人にも伝える


「何時ごろ?」

と聞かれたので、時間を伝えた



部屋へ行くと

しょうちゃんと綾さんが抱きあっていた







ゆっくり車椅子を押して廊下をすすむ


「ねぇ、ちょっと話せる?」

綾さんが言うので


「いいですよ」


中庭が見渡せる、ちょっとしたスペースへ行き、車椅子にストッパーをかける


「動揺しないの?」

「え?」

「付き合ってるんでしょ?」

「ご存知なんですか?」

「うん」

「わざとですよね?」

「バレてたか」

「抱き合う前に目が合いましたから」


「そっか。しょうの事、信頼してるんだ」

「う〜ん、モテるくせに鈍感なんで、やきもちとかは、しょっちゅうなんですけどね。でも、綾さんの場合はそういうのはなくて」

「なんで?」

「知ってますか?オペの後、ずっと手握ってたんですよ、私が見た時は寝てましたけど。それ見た時、嫉妬とかする前に この人には敵わないな〜って思っちゃって」

「じゃあ、私に譲ってよ」

「それは...嫌です。ってかモノじゃないんだから、譲るとかあげるとかじゃないし...」

「そうだね」


今ごろ、そんなこと言うなんて。

つい口走る

「なに?」

「だったら、どうして別れたんですか?」

しばらく沈黙の後

「私が弱かったから」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味よ」

しばらく待っても、それ以上は口を開こうとしなかった


綾さんが弱かったら、私はどうなるんだろう


「なに、その顔。私、そんなに強そうにみえる?」

「わかりません」

「ふっ」

その答えに、綾さんは吹き出した

「あはは、そりゃそうだ」

ツボに入ったらしく、笑い続けてた


※※※


「はぁぁ」


「ため息つくくらいなら、もう帰ったら?ずっと帰ってないんでしょ?」


「師長〜師長も見てたの?」


「修羅場になるかと思ったわ」

なんで嬉しそうなの?


「はぁぁ...帰ろっかな」

いや、待て

このまま帰ったら、逃げるみたいじゃないか?



とりあえず、友希が外科病棟から帰ってくるのを待とう


と思ってたら


「祥子センセイ、救急外来お願いしまーす」

呼ばれ

そのまま緊急オペに入った



手術が終わって廊下に出たら、友希が歩いてた


「友希!」

思わず駆け寄って、声をかける


「わ!しょう..こセンセイ、おつかれさまです」


「あ、うん。今日、行っていい?」


「...はい。...えっと遅くなります?」


「いや、たぶん大丈夫」


「じゃあ、何か食べたいものありますか?」


「あ...なんでも」


「わかりました。私の食べたいものにします。では」


「うん」

なんか、めちゃくちゃ緊張したー





「いらっしゃい、早かったね」


「おじゃまします。なんか久しぶりな感じだなぁ」


「ずっと病院にいたからでしょ?」


「友希、ゴメン」


「とりあえず、コーヒー淹れるね」


「待って!先に謝らせて。綾のこと、分かってるんだよね?もう恋愛感情はないけど大切な人だから、集中したくて。友希のこと考えないようにしてた。ホントにごめん」


「ほんとに?もう好きじゃないの?」


「うん」


「綾さんが好きだって言っても?揺れたりしない?」


「しないよ」


「抱き合ってたくせに」


「あれは...ごめん」


「言い訳しないんだ」

そういうとこが...って言いかけて黙る


「なに?」


「なんでもない。ホッとしてるの。別れ話されるのかと思ってたから」


「そんな、するわけないじゃん」


じゃ、許す

そう言って、キスをされた

「仲直りのキスね」


じゃあ、と言って

「チョコレートケーキありがとうのキス」を返す




「しょうちゃん、今日はすき焼きだから、手伝って!」


「うん」



野菜を切りながら、次は何のキスにするか考えてた







「ねぇ、そういえばさぁ。綾さんに私のこと話したの?」

「話してないよ、たぶん一美に聞いたんじゃないかなぁ?」

「そっか」








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