第28話 バレンタイン(前編)

「寒いねぇ」

2月に入って、また一段と寒くなった気がする


「そう思って、今夜はすき焼きだよー」

「やった!何か手伝う?」

「いいよ、野菜切るだけだし。もう大体終わってる」


「じゃ、とりあえずあっためてあげる」

と言って抱きつく

「もう〜危ないから」

「だって寒いし、久しぶりだし...」

後半は小声で。


「そういえば、しょうちゃん甘いもの好きだよね?コーヒーも砂糖たっぷり入れるもんね」


「うん、好き。なんで?・・・あぁ、チョコも好きだよ」

もうすぐバレンタインかぁ


「そ、そう...」




「あ、ごめん。電話だ。

もしもし、師長?...うん...え?

・・・

血液型はO型、アレルギーはないと思うけど

ね、意識ないの?

・・・わかった、すぐ行く」

スマホを持つ手が震えてる


「しょうちゃん?大丈夫?」


違う、全身震えてる


「しょうちゃん!」


「ごめん、ゆき。病院へ送って欲しい。今、運転する自信ない」


「わかった」



「綾!」

救急外来へ飛び込む


処置台に横たわる、佐伯綾

私の元カノ

今は県警の少年課に勤務、のハズ


「空き次第オペ室へ運びます。外科のセンセイ出払ってるんで僕が。背部を3ヶ所刺されてて出血が多いです。輸血でバイタルは落ちついてますが。損傷が心配ですね」


「西尾センセイありがとう。私も入っていいかな?知り合いなんだ」


「もちろん、助かります」


「準備してきます」



〜〜〜


「良かったですね、なんとか腎臓が無事で」


「西尾センセイのおかげです。ありがとうございました」


ICUで全身管理

まだ麻酔から覚めるまでには時間がかかる

もちろん、まだ油断は出来ないけど

命に別状はないだろう


「なんで背中だったんだろう」

抵抗せずに刺されるなんて...

思わず疑問が口をついた


「誰かを庇ってたらしいですよ」


「そっか、それで」


「じゃ、僕、救急外来行きます。あとよろしく」


「はい」


ベッドサイドに椅子を持ってきて座る


あや。

こんな形で再会したくなかった

早く目を覚まして

いつものように

憎まれ口たたいてよ



深夜

なにやら、救急外来の方が騒がしい


「どうした?」

行ってみると


制服の警官や捜査員らしき男性数名が、

暴れている搬送されてきた患者と揉めている


「銃創です」


銃??

え?何事?


「部外者は出て行って!」


『こんなやつ助けなくても』

捜査員の呟きが聞こえる


「ちょっと何コレ!手錠外して」


『こいつが佐伯さん刺したんですよ』


綾を?

一瞬、手が止まる




綾を刺した男が、横たわっている

痛みのためか、興奮しているのか

まだベッドの上で暴れている


目を閉じて、ひとつ深呼吸


「鎮静剤投与」

「はい」

「手錠外してください。ここは病院です。治療します」


射入創は右下腹部

射出は...ないか


「オペ室空いてる?」


「センセイがやるんですか?僕、救急の方、今は手が離せなくて」


「うん、1人で大丈夫だと思う」




〜〜〜


「おつかれさま」

差し出されたコーヒーを受け取る

時間は午前3時


「ありがと、師長もおつかれさま。バイタル落ち着いたら、早めに警察病院へ転院させて。顔見たくない」


「はい。連絡しときます。ちょっと寝た方がいいですよ」


「ん」



〜〜〜

【Yuki side】



昨日のしょうちゃんの様子が心配で

早めに出勤した


夜勤の人に、昨夜のことを聞いて

カルテも確認した

大体のことは分かった


ICUは外から中の様子が窺える

しょうちゃんは、その人のベッドサイドに座って、寝てた。


「夜中にオペ2つやったからねぇ」


「師長!」


「まぁ、でも。そろそろ起こすか。両方とも」

と言って、ICUへ入っていった


※※※


「センセイ、そろそろ起きてください」


「んあ、寝てた?」


「おもいっきり。そろそろ麻酔から覚める頃ですよ」


「ん、ありがと」


師長は気を遣ってか退室していった


バイタルやモニターを一通りチェックして。

ちょっと尿量が少ないかな


覚醒させる

「佐伯さ〜ん!...あや!」



「うぅ...ん?しょう?...なに?夢?」


「おはよ。残念ながら現実。気分どう?」


「・・・あぁ、そっか病院か。気分は最悪」


「だろうね、痛み出てきたら言ってね。痛み止め使うから」


「・・・しょうが助けてくれたの?」


「私だけじゃないけど」


「約束...覚えてたの?」


忘れたことなんてない

綾に何があっても私が助けると誓ったあの日


「約束じゃなくても助けるよ、仕事だから」


「そか、そうだよね」


仕事というワードで思い出したように

「あの後どうなったんだろ。ねぇ、いつ退院出来る?」


「はぁ?生死彷徨って、まだ半日も経ってないんだよ?今は自分の身体のことだけ考えて。いい?勝手に動いたら退院が伸びるだけだからね!」


そんなに怒らなくても...

小声で言うから

聞かなかったことにして


「また後で来るけど、何かあったら呼んで」

と言い残し部屋を出た


師長に「1時間休む」と伝えて、当直室のシャワーで熱めの湯を浴びる

はぁ..良かった...













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