第22話 決意

あれから一週間。


「祥子センセイ、今日当直代わってもらうことって、出来ませんか?」

「え?小川くん、珍しいね?」

「えぇ、ちょっと用事が」

「ふぅん、デート?」

「いやぁ、デートとかそういうのじゃない、ような気もするし」

「正直に言わないと代わらないよ」

「はい、告白しようと思ってます」

「・・・そっか」


「センセイ?」


「あぁ、うん。いいよ代わる。その代わり結果教えて!それが条件」

「え?あ、はい。わかりました。ありがとうございます」

「ん」


はぁぁ...長い夜になりそうだなぁ



救急搬送はなかったので

消灯するまで、ナースステーションやICUにいて

医局へ戻る


「うわっ、びっくりした〜誰?小川くん?電気ぐらい点けようよ」

「センセイ、、振られました〜」

「あ、そうなの?」

「好きな人がいるらしいっす」

「そっか、じゃあしょうがないよね」

「やっぱりかぁ。ご飯食べに行ってもずっと割り勘だったもんなぁ」

「え?小川くん、それホント?」

「はい、頑なに払わせてくれなくて」


「それは・・最初から、脈なしだねぇ」

「ですよねぇ」

「大丈夫だよ、小川くんならきっと良い人見つかるよ」

「だといいんですけど」



聞こえないように

小さく安堵の溜息を吐いた



2日後。


「しょうこセンセイ、これ」

仕事モードの友希が差し出したもの

「緊急の検査データ、検査部のシステムにエラー出たみたいで、紙で上がってきました」

「あ、ありがと。確認するから、ちょっと待ってて」

「はい」

「うん、大丈夫そう。指示の変更なしでいいよ」


「はい。あとコレ、知り合いに頂いたんですが、明日なんで。センセイ良かったらどうぞ」

「ん?なにこれ?日本シリーズじゃん、え?ココ、シーズンシートじゃない?」

「よくわからないんですが」


「まぁ、いいや。じゃ現地集合でいい?はい、これ持ってて」


1枚を渡す


「え?」

「行けるでしょ?こんな貴重なの無駄にしたら野球の神様に怒られるし」

「はい」



〜〜〜


翌日。


「凄い!全然雰囲気違いますねぇ」


「そりゃ、日本シリーズだからねぇ、って分からないか。そんなことよりチケット代払うよ。知り合いに貰ったっていうの嘘だよね?」

「いえ、頂いたのはホントで。ヨガ教室で、なんか今年一年お試しで配ってるって書いてあって・・」

「ホントに?ヨガ教室がシーズンシート買ったってことかぁ、サファイアシートだもんなぁ簡単には手に入らないかぁ」


「そんなに凄いんだ」


「うん、驚いた。ヨガやってるんだぁ」

「え?そこですか?」

「ふふ、、今度ヨガのポーズ...」

「やりませんよ」



「なんだか殺気立ってますね」

「負けちゃったからね」


帰りの地下鉄の中、通勤ラッシュ並みの、ぎゅうぎゅう詰め

「車にすれば良かったかなぁ」


「わっ」

「大丈夫?掴まっていいよ。痛っ」

「大丈夫ですか?」

「足踏まれた。栄駅過ぎたら空くと思うから。もうちょっと我慢だね」

「はい」


電車に揺られながら

遠慮がちに、私のダウンの裾を掴む細い手を眺めてた。



〜〜〜



「話したいことがあるので、ウチに寄ってもらってもいいですか?あ、ほら本も返さなきゃいけないし」


「ん、わかった」



〜〜〜



「コーヒー、いつもと同じでいいですか?」

「ちょっと濃いめがいいな」

「了解です」


「本、面白かった?」

「うん」

「泣いた?」

「うん」

「読んでないでしょ」

「え」

「バレバレ」

「すみません」


「別にいいよ!で?話って?」



「小川センセイとは、もう会いません。ちゃんと伝えました。好きな人がいるって。

ちゃんと考えた。いっぱい考えた。

やっぱり、しょうちゃんが好き。

私の幸せは、しょうちゃんのそばにいることだから。

もし、許してくれるなら

もう一度、しょうちゃんの隣にいさせてください。

私が決めていいって言ったよね?

しょうちゃんが嫌だって言っても、、

嫌だって言ったら、ストーカーになってやるから」



「ストーカーは、困るなぁ。大事な人を犯罪者にはさせられない。

なんか、ごめん。友希に決めさせるなんて 、私、ズルかったね。

友希が幸せならいいとか、えらそうなこと言ったけど、ホントは怖かったんだよ。他の人を好きになっちゃったらどうしようって。

私が幸せにするなんて、おこがましくて言えないけど。

また寂しい思いさせるかもしれないけど。

友希が幸せを感じる時に、一緒にいたい。」


「しょうちゃん」


「おいで」

腕を広げる

飛び込んできた友希を受け止める


全部受け入れる覚悟を決める


「うぅ」

「また泣かせちゃったなぁ」

「...大丈夫です」


「引っ越し、しよっかな。ホントはもっと前にするつもりだったんだ。モノ少ないでしょ?だいぶ処分したから。でも忙しくなって、結局そのまま。もう何とも思ってないから、そのままでもいいかなって」


「しなくていいよ。私との思い出をいっぱい、あそこで作ればいい。もう、忘れられない思い出あるし。...初めてのキスとか。」


「ん?え?いつ?」

「内緒」

「えぇ〜」



「しょうちゃん、初めて一緒に野球観に行った時のこと覚えてる?」

「当たり前じゃん」

「たぶん、あの時から好きになったんだと思う」


「ふふ、私の勝ちだ」

「え?」

「私は、もっと前からだもん。普通、好きでもない子誘わないでしょ?」


「えぇ〜いつから?」

「教えな〜い」

「えぇ〜」



今回は

どちらからともなく、キスをした。







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