第17話 病欠

初デート後も

相変わらず忙しく

でも、それなりに楽しく過ごし


そして事件(?)は起きた



「師長さん、祥子センセイしばらく不在になりますので、何かあったら僕か西尾センセイに言ってください。たぶん一週間くらいだと思うんですけど」


小川センセイが報告にくる


「あら、また出張?」

「いえ、病欠です」


「えー!」

「えー!」


思わず、師長の言葉と被る

「後藤さんも聞いてなかった?」

「はい」


「え、どうしたの?一週間って?入院してるの?」

小川センセイに詰め寄る師長

「いえいえ、大したことないです。と思います。家にいると思うんで。あ、あとは本人に聞いてください。これ以上言ったら殺されるんで」

逃げるように去って行ってしまった



「もしもし、あれ友希ちゃん?どうした?」

お昼休みを待って電話したら、こんな反応

「それはこっちのセリフです。どうしたの?病欠って。しょうちゃんが休むなんて、よっぽどだよね?」

「あぁ、大丈夫だから、心配しないで」

「心配しますって!とにかく今日終わったら行くんで、住所送ってください」


「え?なんで怒ってんの?来る前に確認しときたいんだけど友希ちゃん、おたふくやった?」

「え?おたふく?子供の頃かかりましたけど。

えぇ〜もしかして?」


「うん。流行性耳下腺炎」

「わかりました。では後ほど伺いますので」

「え?ちょ、なんで笑ってんの?」



ピンポーン


「お、いらっしゃい。迷わなかった?」

「うん、詳細な地図のおかげで」

「ふふ、良く出来てたでしょ?暇だったからさぁ」

「寝てなくていいの?熱は?」

「もう下がってると思う。わ!なに?」


問答無用で

首すじに手を当てる


「まだ下がってないですよ!38度はあるね、顔赤いし」

「え、嘘?測ってみよ」

「冷やした方がいいですよ、冷蔵庫開けてもいいですか?」


ピピピ

「うん。あ、38.2」

「看護師舐めないでくださいね!ほら、寝ててください」


「ねぇ、なんか怒ってる?敬語が怖いんだけど」

「おたふくだからって、油断したらダメですよ!合併症だってあるし、大人は重症化しやすいんだから。知ってますよね?」

「はい。」


「痛みは?湿布も持ってきたよ」

「ん、ちょっと痛い」

「何か作るね!どうせロクなもん食べてないんでしょ?」

「ありがと」

「病人っぽく、お粥とかにする?」

「ん、卵入れてほしいな」


「了解でーす」


「お待たせ〜」

「ありがとう」

「キッチン綺麗だねぇ」

「うん、ほとんど使ってないからねぇ」

「だと思った」



「ねぇ、友希ちゃん、子供の頃にかかった おたふく、覚えてるの?」

「うん、小学生だったかな。弟の誕生日が12月22日でね、ケーキ食べてたの。そしたら左のほっぺが痛くなってね、おたふくだった。冬休みが潰れちゃったんだよ」

「それはそれは」

「普通の日なら、堂々と学校休めたのに、なんで冬休みになるかなぁ」

「ふふ、面白いね」

「え?全然面白くないよ!」




「今日は、ありがとね」

「心配したんだからね」

「ごめん、だって おたふく だし」

「ほっぺ腫れてても、好きですよ」

「また熱上がりそう」


「ちゃんと休んでください」

「看護師さんがモテるの分かる気がするな〜」

「は?」

「弱ってる時に優しくされたら、絶対落ちるわ」

「ん〜なんかそれ、人聞き悪いね」

「ふふふ」


「じゃ、そろそろ帰るね」

「えぇ〜帰っちゃうの?」

「明日も日勤だし。じゃ、しょうちゃんが寝たら帰るね、っていうか、もう寝そうじゃん」



もう〜ホントにすぐ寝るんだから。


ほっぺ腫らせた寝顔は、まるで赤ちゃんだ


頬に、そっと触れてみる

起こさないように、そっと近づく

そして、くちづける。


初めてのkissは、湿布の香りがした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る