第16話 初デート(後編)

「どうした?大丈夫?」


後ろから近づいてきた しょうちゃんの顔をまともに見ることが出来なかった


ちょっと躓いただけ

だから

何もなかったように

歩き出せたはずなのに


「捻ったかな?痛い?」


痛くない

けど

胸が張り裂けそうだった


「大丈夫!」

なんとかそれだけ絞り出したけど


次の言葉を聞いた瞬間

溢れ出る涙を止められなかった


「・・・やめておけば良かったね」


いやだ

そんなこと言わないで


「友希ちゃんに無理させちゃったね、ごめん」

違うよ、しょうちゃん

私が...


私の我儘だ

思えば、朝から土砂降りだったし

しょうちゃんの嫌いな渋滞だったし

しょうちゃん、乗り物酔いするし

ロープウェイも何時間も待つし


それでも無理矢理決行しようとした


もう帰ろう って言われたくなくて

引き返そう って言われたくなくて

振り返ることが出来なかった


泣くつもりもなかったのに

困らせたくなかったから


初めてのデート、自分で壊しちゃった


しょうちゃんは、気長に

私の、泣きながら要領を得ない話をちゃんと聞いてくれた


「それ、全部友希ちゃんのせいじゃないじゃん

言ってくれたよね?

2人なら渋滞も楽しい!って

正確には、他の誰でもない、友希ちゃんと2人だから楽しかったんだよ

私だって、ホントはもっとカッコよくしたかった

段取りわるいし

初めてのデートでバス酔いとか、サイテーじゃん?

結構、落ち込んでたんだよ


でも、絶対忘れられない初デートじゃない?


足が大丈夫なら

続行したいんだけど、いい?」


「うん」


「あ、それから、わがまま言っていいからね。デートなんだから」

「うん、しょうちゃんもね」

「もちろん」


しょうちゃんも、大事に思ってくれてたの?

初めてのデートを


って聞いたら

なんて答えるだろう


いつもの、はにかんだ笑顔で

当たり前じゃん!

って言ってくれるだろうか



「行くよ」


今度は2人並んで歩く

ロープウェイ乗り場に着くと

ちょうどいい時間

ぎゅうぎゅう詰めのロープウェイに乗り

さりげなく、くっつく

我ながら現金なものだ


降りたところは、標高2612m


「うわー凄いね」

目の前に中央アルプスの山々

「偉大だねぇ」

「絶景だねぇ」


周りからも同じような感嘆な声が聞こえる


「ちょっと歩こうか」

「うん」


下りのロープウェイは3時間後

時間はたっぷりある


本格的な登山道ではなく

遊歩道をゆっくり歩く

「ちょっと寒いね」

「うん、まだ9月なのにね」

「手」

「ん?」

「冷たくない?」

「あ〜、ハイ」


差し出された手を繋ぐ


「転んだら、道連れだね?」

「え?それはやだ」

「じゃ、離す?」

「それもやだ」


「いろんな花、咲いてるね」

「うん、高山植物だね、名前わかんないけど」

「へぇ〜」


「今日は見えないけど、こっち方面に富士山見えるんだよ〜」

「へぇ〜また来たいな〜」

「また来るよ!2人で。」


日が暮れ始めたら

本格的に寒くなってきた


売店でお土産見たり

「ねぇ見て〜!カールがパンパンになってる〜」

「ホントだ〜」


「あったかいもの食べようか〜」

「お蕎麦にする〜」


寒いけど

外で景色を見ながら食べていたら


「え〜なにこれ〜」

「うわー、こんなの初めて見た〜」


雲海に現れたマジックアワー


自然が織りなす

見事なグラデーション


「綺麗だね」

「この景色、一生忘れない」




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