第15話 初デート(前編)

結局、研修は1日伸びた。

今日は確か夜勤じゃないはず。


『ただいま。さっき帰ってきたよ。今、家にいる?』

メッセージを送ったら

すぐに既読になって

返事来た


はやっ


『おかえり、しょうちゃん♡家にいるよ』

『今から行っていい?』

『もちろん、いいよ!ご飯は?』

『食べた』

『了解で〜す』


あれから、何度かの電話で

ため口も呼び方も慣れてきた

こういう素直さが眩しくて仕方ない

自分にないものだから


彼女は私を好きだと言ってくれた

きっとそれは、男性に言うよりも勇気が要ること


私は彼女に自分の気持ちを伝えられないままだ



〜〜〜



「はい、お土産。駅で買ったお菓子だけど」

「ありがとう!コレ好き。コーヒー入れるね」

「ん、ありがと。ねぇ、明日休みだよねぇ、何か予定あるの?」

「え?特にないけど」

「明日、完全オフにしてもらったから、どっか行こうか?」


「え?いいの?疲れてない?」

「うん、大丈夫。どこ行きたい?」

「う〜ん、ずっと考えてたんだけどぉ、やっぱり山かな」

「山かぁ。山はいろいろ準備が...あ、あそこなら行けるかなぁ。ちょっと考えるね」

「うん」

「よし!明日のために早く寝よう。ってか私、今めっちゃ眠い。横になったら3秒で寝れる自信ある」

「ふふ、なにそれ」


〜〜〜


「なにこれ?」

「土砂降りだねぇ」


目が覚めたら、雨が降っていた。


「ごめん」

「なんで、しょうちゃんが謝るの?

あ、雨女とか?」

「いや、どうかな?わかんない」

「また、今後でいいじゃん」

「うん、次、いつかなぁ」


諦めきれず、ずっと空を睨んでた


「とりあえず、朝ごはん食べよう」

「うん」

「しょうちゃん?」

「うん」

「映画でも行く?」

「うん」

「しょうちゃん、こっち見て!」

「うん、ん?」

「もぉ〜」

「ごめん、なんだった?」


やばい、怒ってる?


「今日は、パンでいい?」

「はい。」



「何考えてたの?」

「いつもさぁ、約束しても、破ってばかりだよなぁって、」


情け無いよなぁ


「それで落ち込んでたの?

仕事だって、天気だって、しょうちゃんのせいじゃないじゃん!

私は、一緒にいられるだけで充分だよ」


「うん、そうなんだけど。


あのさ、なんで山へ行きたいと思ったの?」

「しょうちゃんが、山が好きだから」

「え?」

「さらっと言ってたけど、ホントは山が大好きなんでしょ?」

「え?うん、好きだけど。じゃぁ私のため?」

「う〜ん、そうじゃなくて。しょうちゃんが好きな山を、私が感じたかったから。かな」


「友希ちゃん、ご飯食べたら、パソコン貸してくれる?」

「うん、いいよ」



「何調べてるの?」

「ん?雨雲レーダー。あと、てんくら」

「てんぷら?」

「そう、エビとイカの。って違〜う。そこでボケるかなぁ」

「ノリツッコミしたくせに」

「ふふ、“てんくら”は山の天気が載ってるサイトだよ」

「ふぅん」

「よし!友希ちゃん、ドライブ行こ〜」

「は〜い。」





「どこ行くの?」

「長野方面。午後には雨が上がるはず。もし予報外れたら、美味しいもの食べて帰って来よう」

「うん! あ、高速乗るの?」

「ん、中央道ね」

「中央フリーウェイだ!ユーミン?」

「古い曲知ってるねぇ」

「母親がよく歌ってた」

「へぇぇ、歌っ...」

「ヤダ、歌わないよ」

「まだ言ってないのにぃ。

あ!あれ?もしかして今、世間は連休中?」

「あ〜そういえばそうだね」

「げ!渋滞だ〜ぁぁ」

「そんなに落ち込まなくても」

「渋滞がこの世で1番嫌いなんだもん」

「そんなに〜?」

「うん」


「渋滞の時は何してるの?」

「1人でイライラしながら、しょうがないから歌ってる」

「歌って!」

「ヤダ!」

「じゃ、2人で」

「え?歌うの?」


思わず助手席の方を向いたら


「しょうちゃん、前向いて!」

「いや、止まってるし」

「運転してる時の横顔が好き」

「・・・」

「そんな歌詞の歌なかった?」

「相川七瀬?古いか」

「わかんないけど...ねぇ、今日は2人だから渋滞も楽しいでしょ?」

「…ん」

「ほら前見て!ちょっと動いたよ」



目的の駒ヶ根インターを降りたのは、お昼を少し過ぎた頃 

予想通り雨も止んでいる

駐車場は、すぐ近くだ


よし、いける。


そう思ったのに


駐車場の料金所のおじさん曰く

「バスは臨時がすぐ出るけど、ロープウェイは2時間待ち。帰りのロープウェイは3時間待ちだけど、大丈夫?

諦めて帰る人もいるけど」



ミッション系の高校に通っていたくせに

神の存在は信じていない私だけど...

oh my god!

誰だ?私の初デートをぶち壊しにきてるやつは。



「大丈夫でーす」

助手席から笑顔で答える、友希ちゃん


「え?」

「行くよ!」

友希ちゃん?


目的地まではバス&ロープウェイ


バスで山道を1時間

バス酔いした


「大丈夫?」

「うぅ、気持ち悪い」

かっこわる〜

「三半規管弱いんだね」

「うん」


バスを降りると、そこはロープウェイの山麓駅

お土産や軽食の売店もある

そこで整理券を貰う(2時間待ち)


「ちょっと落ち着いた?何か食べる?」

「うん、バス降りたら良くなった」

「じゃ待ってて!ちょっと買ってくる」

「え?あ、ちょっと」


もういないし



「今日は、わたしの奢りで〜す。焼きそばだけど、ふふ」

「ありがと。今日の友希ちゃん、なんか男前だね〜カッコいい!」

「やだぁ、しょうちゃん!ソフトクリームも食べる?ふふふ」



〜〜〜


なんとなく違和感は感じてたんだ

もっと早く気づいてあげられれば良かったんだね



「食べたらお散歩しよ!あっちに遊歩道あったよ」

「友希ちゃん、元気だなぁ」

「ぼーっとしてたら置いてくよ〜」



すでに標高は1662m

自然豊かな、その場所は

僅かだけれど、赤くなった葉っぱもチラホラ

もうすぐ紅葉の季節だ


少し前を歩く 友希ちゃんの後ろ姿


しっかり前を向いて

足元を見て

時々空を見上げて


ずっと見ていたくて

わざと距離を取って歩く


そういえば、一度も振り向かなかったね



前方に滝が見えた時

フイに体が揺れてうずくまる


「どうした?大丈夫?」


駆け寄ると

何も言わず足首を押さえてる

「捻ったかな?痛い?」

「大丈夫!」

そう言った顔は、全然大丈夫じゃなく

涙目だ


安全な場所に移動して座る


「ごめん、朝、雨の時点でやめておけば良かったね」


そう言った瞬間

友希ちゃんの目から

大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた


「え?」


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