第12話 夜空

「センセイ、今日の合同カンファですけど、こっちの当番の子ひとり体調不良でお休みなんです。後藤さんだけになっちゃいますけど、大丈夫ですか?」

「あ、師長!うん、大丈夫だよ」


月に1度、病棟毎、医師・看護師合同の勉強会も兼ねたカンファレンスが開催される


簡単な資料制作、会場セッティング、司会進行などは、当番制だ



〜〜〜


「センセイ、おつかれさまでした〜」


ちょっと遅くなったが会場の片付けも、あと少し


「おつかれ〜うまくいって良かったね!後藤さん、初めてだっけ?」

「はい。勉強になりました」



ドアが開いて、師長が入ってくる


「おつかれさま〜もう終わる?」

「大丈夫で〜す」

「私、先に帰るけど。センセイ!時間遅いから後藤さんを送って行ってくれる?」

「了解で〜す」

「じゃ!」



「師長の命令だから、いいよね?」

友希ちゃんを見る


それは、困ってる顔なの?


「はい。お願いします」

良かった…


「ん。そういえば、手は大丈夫?」

「はい、もうすっかり」

「傷跡、残っちゃうかなぁ」

「大丈夫です、手だし。記念に...あ...」

「は?何の記念だよ〜え?もしかしてアレ名誉の負傷とかなの?」


俯きながら

「センセイが縫ってくれた記念...」


え?


「見せてみ!」


手を取って

そっと傷をなぞる


「光栄です。」


「センセイ....」


「帰ろっか」



駐車場へ移動する


「あ、ちょっと寄りたいところあるんだけど、いいかな?今日時間大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「良かった!じゃ、乗って」



※※※



車を降りたら


「ちょっと歩くけど」

と言って

懐中電灯を渡される


確かに暗い

どこだろう、ここ。

遊歩道?


「足元、気をつけてね」

「はい、あっ」


言われたそばから、何かにつまずく

うわっダサっ


「大丈夫?」

「大丈夫です!」


さっき、あんなに恥ずかしいこと言っちゃったし

すぐコケたり

カッコ悪すぎ


恥ずかしすぎて


「ほら、つかまって!」

と、差し出された手を


「大丈夫です、1人で歩けます」


拒む



「ん、じゃ、付いてきて」



緩やかに上っていく坂道

揺れるセンセイの華奢な背中

見失いたくない

一生ついていきたい



「え?あ、ちょっと、早っ」

「ぼーっとしてると、置いてくよ〜」



〜〜〜


ちょっと開けた場所に出ると

ポツンとベンチ?

街灯もなくて、懐中電灯の明かりだけが頼り


夜景が見えるかと思ったけど

ほとんど見えない


「ここ座って!」

やっぱりベンチだった


「貸して!」

懐中電灯を渡す


「えぇ?」

「なにを?」


明かりを消したので真っ暗


「ふふっ、何か期待してんの?」

「ち、違っ」


「上!」

ん?上?見上げると


「うわっ、なにこれ〜」


これは、まさに 満天の星空 ってやつ


「凄いっしょ〜」

「こんなの、プラネタリウムでしか見たことない」


なんでだろ

涙出てきた



「綺麗ですね」

「うん。今日は雲もないし、新月だから、いつもより綺麗だ」



「よく来るんですか?」

「うん、たまに。走ってる」

「は?走って?」

「うん。ストレス解消にね。土の上を走るの、気持ちいいんだよ。

夜明けの時間に来ると、朝陽が綺麗だよ!この林の向こう側ね!」


「凄いな〜

っていうか、センセイがそんなことしてたなんて知らなかった」

「誰にも言ってないもん」

「え?」

「お気に入りの場所だから。穴場だしね。

でも、ゆきちゃんには見せたかったんだ。特別だから」



「センセイ。

私、センセイが好きです。

誰に何を言われてもいい

センセイと一緒にご飯食べたり

センセイと一緒に出かけたり

センセイと一緒にコーヒー飲んだり

センセイと...一緒にいたい」



「うん、今度デートしよう」


そっと手を握ってくれて

しばらくそのまま星空を眺めてた



「あ!」

「わ!」


「流れたね」

「流れました」


「一瞬だ〜」

「あんな短い間に願い事なんて無理ですよね〜」





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