第11話 縫合

あれから2週間


わかってはいたけど、ご飯のお誘いがなくなればメッセージも来なくなる


普通に挨拶もするし仕事もするけど

冗談や雑談は少なくなった



これが普通

これでいいんだよね


チームで患者さんの看護にあたる世界

『チームケア』

みんなの和を乱したらダメだもんね



本音のトコロは

狭い看護師の世界、睨まれたらやっていけない


弱い自分




病棟に行けば、いつもそこにいるんだけど

なんだか遠い存在になっちゃった




ふいに目が合う

どうやら、無意識に目で追っていたらしい


「後藤さん、回診行くよ〜」

「あ、はい。」


慌てて包交車を押して行く




センセイにとっては、別にたいしたことじゃないんだろうな



気付いてしまった自分の気持ちに蓋をする

きっと、時間が解決してくれる




〜〜〜



それなのに、気付くとセンセイのことを考えてしまってる


「はぁぁ」


「ちょっと〜後藤さん!何してるの?」


休憩室に入ってきた きょうちゃんが叫んだ


「え?何って、コップ洗って...」


手元を見たら


え??血だらけ?

なんで?




「誰か〜ガーゼ多めに持ってきてくださ〜い」


きょうちゃんが叫ぶ


「どうした?」


主任さんがガーゼ持ってきてくれる



私はただ

何が起きたかわからず、ただ呆然と固まっている



「切傷だね!ちょっと深いか。ガーゼで圧迫しながら処置室連れてって!センセイ呼んでくる」


さすが、夏目主任。冷静。



どうやら

洗っていたコップが割れて、それで手をザックリ切ったらしい




「あ〜これは縫わなきゃダメだね」


よりによって祥子センセイがやってきた


「祥子センセイが?」

「嫌なの?こうみえて縫合は得意だよ」

「いえ」



「センセイ、介助しましょうか?」


と言う夏目主任に


「ううん、大丈夫!それより この子、午後からは仕事にならないだろうから家に帰してあげてね」


「わかりました。じゃ、お願いします」





二人きりになった処置室


「また、ボーッとしてたの?」

「すみません」


恥ずかしくて、消えてしまいたい。


あなたのこと考えてた、なんて言えない。



「しっかし、コップ洗ってて手を切るって!気をつけてよ。神経傷つけたら大変だから」


「はい」



「痛くない?」

「はい。麻酔効いてます」


「あのさぁ、あんまりじっと見られてると、手元狂いそうなんだけど」

「あ、すみません。ホントに縫合、上手だなぁって」


指も綺麗だなぁ


「ありがと」



そんな笑顔されて

こんなに近くにいると、目のやり場に困るよ



と、ドアが開いて

再び、主任さん登場


「ごめん、ちょっと包交車整備させて〜」

「うん、もう終わる。何?主任さんがそんなことまでやるの?」

「そーだよ、主任なんて雑用ばっかりだよ!

お!相変わらず、芸術的な縫合だねぇ」


「ありがとうございます」



「はい、終了。抜糸は1週間後ね。ガーゼ交換は毎日。自分で出来るかな?なるべく濡らさないように。痛み止めと抗生剤出しとくから薬局寄ってって。何かあったら連絡して」


「はい、ありがとうございました」




何かあったら連絡して。って言ってた

何かなくても連絡したいなぁ

ダメダメ


スマホ見つめてたら

メッセージが来た


びっくりした〜

センセイ?


『大丈夫?痛みない?手、使えないけどご飯食べれる?そっち行こうか?』


やばい

文字だけなのに愛おしい

我慢していた涙がこぼれる


傷の痛みより

心が痛いよ



『来て欲しい』

って打ったら、会える?


でも

打てなかった。


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