11/11 待ち合わせは渋谷

人生は芸術を模倣する




オスカーワイルドの言葉。



俺が作っている作品は、過去の様々な物の引用やオマージュが多々ある。


文学なら 種田山頭火 尾崎放哉 正岡子規 松尾芭蕉 クラシックではヴェートーベン バッハ そして、オスカーワイルド。


多くの偉人の歴史を振り返り、紐解き、自分なりの解釈を得る。


思ったことを素直に書き出し、作品に組み込む。



つまり俺は、俺と言う、俺の人生と言う作品を作っている。



過去の人物を「模倣」しているのだ俺は。


どこまでも、本音で向き合いながら。




尾崎放哉おざきほうさいという俳人がいた。


自由律俳句という、五.七.五に囚われない俳句を作る男だった。


有名な句の中にこんな物がある。



「咳をしても一人」


人との関わりがなく孤独だった放哉が、晩年に病に倒れ、咳をする音だけが部屋に響く情景を表している。



高慢、酒癖が悪い、無理に金を借りようとする金銭面での素行不良、妻にも逃げられた。


そんな状況で、彼は肺を壊した。


看病してくれる人は1人居たが、それだけ。





「咳をしても一人」


この7文字に、どれ程の思いが込められているというのか。



孤独という2文字で言い表すのは、少し簡単すぎるとも思う。



性格上、人と馴染めずに、人を恨み、自分をも恨み、世を捨てて、自己嫌悪に陥り嫌われて死んでいく。




そんな男の生涯が閉じる寸前で読んだ句を、簡単に表せるものでは無いだろう。




元々、人間の本来の姿は孤独だと思っている。



一人で生まれ、一人で死んでいくのだから。





その後、ある一人の俳人が放哉へ寄せた句を書いた。


種田山頭火たねださんとうかである。




からす啼いて、わたしも一人」


数年後、放哉の墓を二度訪れ、晩年に作り上げた詩集の中にこの句を載せた。


この二人は似たような境遇だった。



家柄、学歴を捨て、普通では生きていけないような危うさを持った句を作る。


そんな山頭火が送ったこの句、俺はこれをとても美しいと思った。



是非使いたいと思った。



盗用とオマージュは紙一重だと俺は思う。




どちらも、どちらにもなりうるのだ。



「盗用だ」と公言した時、盗用はオマージュへと姿を変える。



盗用とオマージュの境界線は曖昧に在るようで、実は何処にも存在しない。


逆もまた然りだ。


オマージュは全て盗用になり得る危うさを持つ。


俺が先程例に挙げた偉人達へのオマージュ、

それは、きっと盗用とも言える。





俺は今渋谷駅に居る。これだけの雑踏の中に居るのにも関わらず、孤独感を感じるのは何故だろうか。



夜の風が頬を刺している、もう十一月になった。 早さを実感している。




一年がもうすぐ終わる、俺は充分に生きられただろうか。


-------




「やばいやばい、」


目が覚めた途端、背筋が凍った、明らかな遅刻。




確実に目覚ましをかけたはず、だった。



今から準備をしたとして、一時間は遅れてしまう、やってしまった。


本当にカヲルに申し訳ない、申し訳ないという言葉だけで済ませてしまうことも申し訳なく思う。


どうしようどうしよう、早く準備をしなきゃ。


私は急いで部屋着を脱ぎ捨てた。






------





ガタン、ガタン、と列車の揺れる。

少し早く家を出る事が出来た。




列車に揺られている、隣の人の荷物が少し足に当たる。



もう少しで渋谷だ。



やっと着いた...と少しだけ安心が漏れた。


渋谷駅を出て、銅像の前で待ち合わせの約束。


流石にもう居るよな...と思いながら足早に向かった。




「おまたせ〜!!、ごめんなさい...」



「お、やっほ〜」


見たところ本人は全く怒っている様子も無い。



「怒ってないですか??」




「別に、遅刻なんて怒る程でも無いだろ」



「来てくれりゃあいいよ」




「神様....なんか買ってあげるね」



「なんだそれ笑」



自分の方から買い物へ誘って起きながら大遅刻をしてしまった後悔で心がいっぱいになっていた。



中々無い機会だっただけに、尚更。




「んで、今日は何するんだっけ」



「お買い物します!、」



「何買うの」



「服とか、化粧品とか」



「カヲルは買う物無いの?」



「まじでないなあ、着いてくよ」



「荷物持ちましょうか?」



「どこまで優しいの?」



会話を弾ませながら、渋谷のショッピング施設を歩いた。



109 ヒカリエ モディ。




金曜日の夜にで、街中は賑わいをみせていた。


買い物を済ませたあと、渋谷の夜を歩き回った。




スクランブル交差点の信号を待つ間、光を放つ大きな電光掲示板を見つめる。


アイドルが歌いながら踊っていた。


「あ、あれ俺が作った曲」


「ええ!?、あの大人気アイドルの曲!?」


電光掲示板を指差しながら大きな声を出す。



「そうそう」



「いつだったかな〜作ったの、去年かな」





「ガチモンの作曲者じゃん」




あまりに突然に言い出したことで今日買った物の記憶が一気に消し飛んだ。



知れば知る程、わからなくなってくる。 この人が一体どんな人で過去に何をしていたのか。



本当に不思議な人間だ。


「ここじゃあんまり大きい声で言えんけどな」


「そりゃそうよね」


驚きでまだ胸がドキドキしていた。 もしかすると今隣に居る人は、偉大な音楽家なのかもしれない。



「ユズハ?どうした」


「ごめんなんでもないよ!」



言葉が出てこなかった。


少し怖いほどに。



帰る時間になった。 すっかり夜になった。



星が輝いている、うっすらと見える。



人工的な明かりと自然の明かりが混ざり合って、これからの夜を映そうとしている。



列車が動く、窓ガラスに自分の顔が映った。




反射したその顔は、やけに疲れていた。

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