クロサギの菜の花
亜月 氷空
クロサギの菜の花
あの日、私は実に不思議な少女に出会いました。
彼女は、放課後の公園で遊んでいれば記憶の片隅にも残らないような、そんな小さな少女でした。
色素の薄いふわふわとした髪と、意志の強い目が印象的な子でした―――
「お姉さんお姉さん! ちょっと来てほしいんだけど!」
久しぶりの休暇に、最近忙しさにかまけて会えていなかった彼氏を誘い、プチデートと称して買い物に来ていた私は、突然誰かに呼び止められた。
久しぶりのデートを邪魔された形にはなるのだが、たくさん買い物ができて上機嫌だったからか、大して嫌な気もせず私は振り向いた。まあ、彼氏の手前、横暴な態度をとるわけにもいくまい。
すると、私の腰ほども身長のない、小学生くらいの女の子が私の服の裾を引っ張って、通りの奥のほうを指さしていた。
「お姉さん、あっち! なんかね、男の人が二人で喧嘩してるみたいなんだけど、何とかしてくれないかな?」
「喧嘩?」
大人に助けを求めるのは分かるが、なんで私? 隣に男の人がいるのに?
「お姉さん、刑事さんでしょ? それに何か武道やってるっぽいし、ほら早くしないと!」
そう言うと私の手をぐいぐいと引っ張り、無理やりにでも私を連れて行こうとする。
「なんだ、親戚の女の子か何かか? しょうがないな、僕も行こう」彼が言う。
しかし私は困惑しながら首を横に振った。
「いいえ。いいえ、違うわ。全く知らない子よ」
「え?」
そうなのだ。私は、少なくとも私の記憶に間違いがなければ、この子とは初対面のはずだ。それなのに、どうしてこの子は私の職業を知っているのだろう。武道のこともだ。確かに私は小さいころから柔道をやっていて、一般男性二人なら相手できるくらいには強いと自負している。
「ねえ、間違っていたら悪いんだけど、私あなたに会ったことはないわよね?」
私を引っ張ったまま前を進む少女に声をかける。しかし彼女はくるりと振り向くと、それには答えずにっこり笑って「しゃがめ」というようなジェスチャーをしてきた。言われるままにしゃがむと、彼女は私の耳元に顔を近づけた。
「仕事熱心なのはいいけど、久しぶりのデートくらい真剣に楽しんであげないと、彼氏さんかわいそうだよ?」
仕事を頼んできたのはそっちでしょ、と言いかけて、彼女はそのことを指しているのではないと気付く。
ばれているのだ。私だけ、このデートに別の目的があったことに。
「あなた、それをどうして……」
「ここだよ、お姉さん!」
問いかけたところで、目的の場所に着いたようだった。なるほど確かに、大の男二人が人目もはばからずに大声で喧嘩をしている。
「てめえ、ふざけんじゃねえよ! 俺のリリカちゃんに手え出しやがって! その上リリカちゃんの悪口言うなんて、ぜってえ許さねえ!」
「はあ!? あの女ブスだから手は出してねえって言ってんだろ! なんだよお前リリカちゃんリリカちゃんってうるせえんだよ!」
「今リリカちゃんのことブスって言ったか!?」
少し聞く限りだと、女性関係のトラブルのようだった。しかしお互い激昂していて、話が支離滅裂で嚙み合っていない。掴みかかって殴り合い状態だ。これは周りの人が近づけなくても無理はない。
正直近寄りたくない。がしかし、ここは市民の安全を守る使命を負った警察官。しかもこんな子供に頼られているとあれば、止めに入らなければなるまい。
「ちょっと、あなたたち、こんな昼間から迷惑になるからやめなさい」
「なんだ姉ちゃん、邪魔すんのか!?」
「あのねえ……」
これは骨が折れそうだ。ああもう、今日は非番だっていうのに。
そうして約五分後。どうにか彼らに帰ってもらうことに成功した。ちょっとキレかけて手が出てしまったが、見なかったことにしてもらいたい。
「お嬢ちゃん、大丈夫だった……ってあれ?」
私をここまで引っ張ってきたあの少女は、気付くとどこにもいなくなっていた。
「ふーん、相沢梨花っていうんだ、あの人。さっきの喧嘩の原因の人と名前似てるね」
「まったく、相変わらず手癖が悪いなあ」
小学生には似つかわしくない長財布の中を漁りながら歩く少女と、その少し後ろをついていく高校生らしき青年。
「いいでしょ、ちょっと拝借しただけだもん。あとでちゃんと返すから」
悪びれもせず、先ほど掏った財布の中身を確認する。
「うわ、ポイントカード多っ。あー、あの人押しに弱そうだからなあ」
「お嬢様はまた何か面白いものでも見つけたようで何よりですね」
青年が皮肉っぽく言う。少女は実に楽しそうに笑って、くるくると回りながら進んでいく。うきうきとした様子は、周りの人々から見ればほほえましい光景だ。話の内容を知らなければ、の話だが。
「なんだ、すぐそこの東央警察の警官じゃん。見た目の年齢からしてわりと新米かな? 仕事熱心なのはすごいね、この手帳メモでびっしり。さっきもデートしながら常に誰かを見張ってる感じだったし」
「相沢梨花、一九九二年六月二十六日生まれ二十四歳、A型。慶早大学法学部卒業、東央警察署捜査第二課所属。すごいな、柔道の講道館認定で四段だって」
スマホを軽く弄りながら少年が言う。もちろんこれらは公開された情報ではないが、青年にとってはこの程度の個人情報、スマホからでも潜り込めるくらいには朝飯前である。
「こうどうかん何とかって?」
「簡単に言えば、柔道の公式段位認定してるとこだな。四段はすごいほうだ」
「ふーん。……あっ」
ふいに少女は立ち止まると、手帳の中身を凝視しだした。少女の顔の笑みが濃くなる。
「うわあ、なんか嫌な予感しかしないんだけど」
「カナタ! 次のターゲットは、こいつらだよ」
カナタと呼ばれた青年は、差し出された手帳を覗き込んだ。
「東京都教育委員会? また、ビッグな機関を持ち出したなあ」
「しかもここにもう一つ書いてある『桜桃小学校』ってうちの学校だし。このメモによると、教育委員会とうちの学校が共謀して、不正な資金運用が行われてるみたい。で、あの女刑事さんはそれを摘発するために証拠探しを頑張ってる、と。じゃあさっき見張ってたのは、そのお偉いさんでもいたのかな?」
「なるほどな。で、お前はまたそれに首を突っ込もうってわけですか、菜乃夏お嬢様?」
「人聞きのよくない言い方しないでよね。それに、お嬢様はやめてって言ってるでしょ」
「ほらその態度。どっからどう見てもお嬢様じゃないか」
「うるさいなあもう! ほら、早く帰って作戦立てるよ!」
少し怒って前を行く少女と、わかりましたよ、と苦笑いでついていく青年。その光景はやはり、大変ほほえましいものだった。
「そうだ、このお財布と手帳はあの人に返しておかなくちゃね」
「自分で掏っておいてよく言うよ」
早く行くよ、と進行方向を変えながら少女が言う。二人が向かう先は、東央警察署だ。
「……っていうことがあったんですよ!」
翌日、東央警察署内。私は、先輩に昨日あったことを報告(という名の愚痴でもある)していた。
「非番で喧嘩の仲裁か。ごくろうだったな。落とした財布も戻ってきたみたいだし、よかったじゃないか」
「そうは言いますけど、私本当に昨日は財布を落とした記憶がないんですよ。しかも手帳もですよ? あんなに大事なことがたくさん書いてあるのに落とすなんて、私は自分が信じられません」
「でも例の女の子が拾ってくれたんだろ? お前がうっかり一般人に手を出してる時にでも落としたんだろ」
「痛いこと言いますね……。……結局、あの女の子は何者だったんでしょうか」
「俺に聞かれても、俺はその子に会ってねえからなあ。ま、お前が警官の制服来てるとこでも見たんだろ」
「私ほとんど制服着てないんですけど」
「あ? そうか。捜査課は大体スーツだな。だったら、お前が忘れてるだけじゃねえの」
「やっぱりそう思います? どうしても思い出せないんですよ……」
あれからずっと考えているのだが、どうも狐につままれたような心地がしてならなかった。昨日は委員長を見張っていたのだが、なんだかんだで見失って何の成果も得られなかったし。
「そうだ、俺らが追ってる教育委員会のやつらな、どうも三日後に桜桃小の校長と接触するらしいぞ」
その一言で一気に空気が張り詰める。
「その話、ソースは?」
「俺の懇意にしてる情報屋だ。そいつのことは詳しくは明かせないが、情報はほぼ百パーセント間違いないと言っていい。俺が保証する」
ずいぶんと信頼しているようだ。私もこの先輩のことは信じられると思っているし、情報はおそらく本当だろう。
私はこの課に入ってからまだ一年ほどだが、これは初めての大きなヤマだ。失敗はできないし、何より小学校という教育の場での不正なんて許せない。
勝負の日は、三日後。
何としてでも証拠をつかんでみせる。
「菜乃夏、三日後だってよ」
「へ? 何が?」
夕方、部活終わりのような格好で少女のもとに顔を出した青年は、少女を見るなりこう言った。
「は? 何お前、もう忘れたの? 教育委員会の偉い人とお前の学校の校長が接触するって」
「ああ、その話。三日後ってまた、ずいぶん急だね。それで? 三日じゃ準備が整いませーんって泣きに来たの?」
「まさか。あのくらいの準備、一日あれば終わるよ。いつから決行しても大丈夫ですよ、お嬢様?」
にやりと笑いながら青年が言う。
「そう、上出来。じゃあ早速、明日からよろしく」
「イエッサー」
「なに、あれ……どういうこと?」
三日後、桜桃小学校。私と先輩は校長室の見える位置で、覆面パトカーに乗って張り込んでいた。生憎中まで踏み込むことはできず、仕方なくこうして外で動きがないか見張っている。今日は土曜日のため午前中で授業も終わり、校内には一部の先生しか人が残っていなかった。
そんな中、校長室に見える二つの影。……と、もうひとつ、小さな影。先ほど委員長が学校に入っていったのを確認したので、二人はそろそろ密談を始める予定だったはずだ。しかし、あの小さな影は何者だろう。何やら現場は騒然としているようだが、中に入れない私には状況を理解する術がない。
次の瞬間、小さな陰に襲い掛かる一つの影と、何かが落ちて割れたような音。
「先輩、突入しましょう」
外にまで響き渡る大きな音に、私は思わず言っていた。
「今のは確かに、何かあったとしか考えられない。がしかし……」
先輩の同意だけを確認し、それ以外の話は聞かずに私は校長室に向かって走り出した。
「あっ、おい! あいつには逮捕状も突入許可も出てない……って聞いてないな、あいつ。後で上にどやされるのは俺なんだってこと、わかってんのかな」
ぼやきながら、彼も後を追ってくる。校長室の前にたどり着き、中に注意しながら扉を開ける。
『そうだ、私は教育委員会から資金を余分に受け取り、君のような子供を買うのに使ってきたよ。――そうだ、私は教育委員会から資金を―――』
その直後、校長室に突入した私たちが目にしたのは、泡を吹いてソファーに倒れこんでいる桜桃小の校長と、そのそばでリピート再生され続けている小さなレコーダー、机から落ちたのか、割れた状態の花瓶。レコーダーの内容は、校長が資金の不正運用を認める内容の自白だった。
「これは、いったい……?」
「おーおーこりゃまた、派手にやられたなあ。おっさんは無事か? 重要参考人だ、死なれちゃ困る。『子供を買う』ってあたりからまだ余罪も追及できそうだ」
先輩は慣れた様子で応援を要請し、校長の様子に注意を配りながら現場を見て回っている。私も何かしなければと動こうとするが、何をしていいかわからない。うまく思考が働かない。そのまま呆然と立っていると、先輩がこちらへ寄ってきた。
「突入は正解だった。いい判断だ。勝手に入ったことに関しては、俺が何とか謝っておくから気にするなよ」
その言葉で、一気に心が軽くなる。やっぱり先輩はすごい人だ。
外が何やら騒がしくなってきた。応援が到着したようだ。これはいったい誰が、どうやったのか、そしてこの校長の余罪の調査と逮捕もしなくては。
「おっ、応援来たな。したら悪い、俺ちょっと一瞬だけ外していいか? あとは応援の奴らが何とかしてくれんだろ」
「わかりました、いってらっしゃい」
先輩は煙草をふかしながら、学校の外へ出て行った。
「今回もまあ派手にやってくれたな、ええ? お嬢様?」
刑事が向かった先は、騒ぎを見つけたやじ馬たちの輪から少し外れたところ。そこには、例の少女と青年がいた。
「ちょっと、あんたまでお嬢様って呼ぶのやめてよ。あと、あの校長にはすこーし眠っててもらってるだけだから、数分もしたら目を覚ますよ、たぶん」
「こう毎回やられちゃ、警察のメンツ丸つぶれなんだけどなあ……っと」
急に刑事のほうに投げられたのは、現場にあったのとは別のレコーダー。
「その中に会話の一部始終が録音してあるから、使えそうなとこあったら参考にしてよ。あ、もちろん、あたしの声は一切使わないでね」
「はいはい、ありがたく頂戴しますよっと」―――
―――作戦を開始したのは二日前のことである。
あの校長の容疑は二つ。教育委員会からの資金の不正運用と、児童虐待。脅したのかグルなのかは知らないが、教育委員会から不正に多く教育資金を受け取り、その一部を自分の懐に入れ、さらにその金で闇取引の児童を買い付け、虐待行為を繰り返していたという。
まず、カナタが偽の教育実習生として小学校に潜入。校長の動向を探りつつ、ほかの教員の観察も忘れない。ざっと見たところによると、今回の不正行為は校長の独断で動いているようだった。
次に、自白させやすくするためには、対峙したときに仲間がいると困る。そこで教育委員長に校長のふりをして電話をかけ「少し面倒な実習生が入った。こいつを処分してから話し合いたいから、時間を二時間ほど遅くしてくれないか」と言い、現場を校長と菜乃夏たちだけになるようにセッティング。張り込んでいる警察に不自然に思われて計画を崩されると困るので、変装したカナタが委員長のふりをして学校に入る。
そして、校長が時間通り教育委員長を迎えるために校長室に入ったところで、菜乃夏が校長室へ。「こうちょうせんせい、あの……そうだんが、あるんです」とかなんとか可愛らしく涙でも溜めながら言えば、このロリコンじじいは一発だ。そのまま菜乃夏は校長を誘い続ける。
校長室にはあらかじめ盗聴器とレコーダーをセットしておき、校長が菜乃夏に手を出しかけたタイミングで、偶然を装いカナタが入室。これで、「自分の学校の児童に手を出そうとしたところを人に見られた」という弱みを握ったことになり、同時に焦りも引き出せる。
「校長先生、あなた、何をしているんですか……?」
「き、君はたしか教育実習生の……い、いや、これはだな」
「先生、児童買春禁止法って知ってます? 児童虐待防止法でもいいですけど」
「これは、この子が相談があるというから乗ってあげていただけだ。な?」
「えーんカナタ先生ー、校長先生があたしを変な目で見るの! こわかったよお」
「き、君!」
「よしよし、もう大丈夫だからね」
ここでカナタが必死に笑いをこらえていたことは内緒だ。
「校長先生、この学校に来る前に、あなたとこの学校について少し調べさせていただきました。あなた、ご自分に黒い噂があることはご存知ですか? 時々児童を見る目が教育者のそれじゃないんですよ。児童を虐待してるとか、闇で子供を買ってるとか。まあわたしは、あなたはそんなことをする人間じゃないと思っていますけど、ね?」
この時、校長の顔が一瞬ひきつったところは見逃さない。
「あ、ああ。もちろんそんなことはしない。わたしは……」
「それにね? ちょっと予算のほうを調べてみたら、不思議なことが起こったよ。教育委員会から支給されている額と、あたしたちの家庭から出してる額を合わせた金額より、予算案の金額が安いんだ。あれれ? 学校に使わないで、ほかのどこに使うつもりなの?」
いつのまにかカナタのところから校長の隣に移動していた菜乃夏が言う。
子供の無邪気さを残しながらも、先ほどとは態度が全く違う。
「まさか、貴様らグルでわたしを……」
ちらりと出入り口のほうを確認したのを見て、カナタが即座にそこをふさぐ。
「ああちなみに、教育委員会の人なら来ないよ」
「どう先生? いまあたしたちが言ったこと、あってた?」
算数の問題の答え合わせをするかのように、純粋な疑問というように尋ねる。
「あっているわけないだろう! ふざけるのもいい加減にしたまえ!」
「ありゃ、調子取り戻しちゃったかな」
「へえ、そんなこと言っていいんだ。あんたさあ、さっきあたしにしたこと忘れたわけじゃないよね? あたしがそれで被害届でも出せば、あんたどうなると思ってんの? お前の教育者としての道は終わる。それどころか、人としての道も終わるよ。人間失格だね」
さらに態度を変えて菜乃夏が畳みかける。冷静に考えれば、今の言葉は確証の持てない事柄ばかりだ。しかし、動揺していたところに付け込まれたからか、菜乃夏という「少女」に言われたからか、校長の牙城はここで脆く崩れた。
「そうだ、私は教育委員会から資金を余分に受け取り、君のような子供を買うのに使ってきたよ」
「認めたね?」
どういうわけか、校長の息が荒い。今にも菜乃夏に飛びかかろうとする勢いだ。
「ああ、認めるよ。けど、今までに君のような子供はいなかった。その容姿、頭の良さ、その性格、その氷のような視線……」
菜乃夏の全身に鳥肌が立つ。
「ロリコンエロじじいキモイ死ね! やめろ、来んな!」
「なのかちゃん、だっけ? かわいい名前だね……もう我慢できな……」
ここまで言って、校長の意識は途切れた。後ろからカナタが気絶させたのだ。その拍子に校長の体が机にあたり、そこにあった花瓶が倒れて割れてしまった。
「菜乃夏、大丈夫?」
「遅い。こいつほんとに信じられないくらいキモかったんだけど」
「ごめんごめん。じゃあ早いとこ撤収しようか」
こうなったらあとは、レコーダーをリピート再生に設定して現場を離れるだけだ。
これが、校長室で起きたことのあらましだった。
「んで、どうせレコーダーに指紋とかは残ってないんだろ?」
「当たり前でしょ」
そんな初歩的なことを聞くなとばかりに菜乃夏が答える。
「ったくお前らな、情報をくれるのはありがたいが、毎回先超すのやめろよな。警察の仕事がなくなっちまうだろ」
「いやいや、警察の仕事ならあるよ。あの校長を逮捕することと、もうすぐ来るであろう教育委員会のやつをついでに捕まえること」
「ほとんど雑用じゃねえか。おいしいとこだけ持っていきやがって。まあなんにせよ、犯罪者逮捕の協力には感謝する。だがな、おまえらがやってることも一歩間違えば犯罪だってこと、忘れんなよ。いつも言ってるが、今からでもまじめに生きろよ。じゃあな」
くるりと背を向けて刑事が現場に戻っていく。あとは警察の仕事だ。菜乃夏とカナタもそのまま帰路につく。
「また釘刺されちゃったね。懲りないなあ、あのおじさんも。なんだかんだいい人だけどね」
「あたしたちのこと見逃してるんだし、いい人だよ。次回からはあの女の人も絡んできそうだね」
「あの人もいい人そうだったし、大丈夫じゃない? っていうかそんなこと、僕らにはどうでもいいけどね」
「まあねー。ああどうしよう、この菜乃夏って名前、改名したい」
「どうして?」
「ロリコンじじいに可愛いって言われたから」
「根に持ってるなあ。あの校長と一緒なのは本当に不本意だけど、僕は菜乃夏って名前、かわいいと思うよ?」
「……っ、なによ、あれと同じこと言うなんて信じらんない」
「不本意だって言ったじゃん。……あれ、どうしたの菜乃夏。なんか赤いよ?」
「……っうるさい! もう、あたしのこと菜乃夏って呼ぶの禁止!」
耳まで赤い気がするのは、きっと夕日のせいだ。
少女は急に走り出すと、少し先でくるりと振り返り、満面の笑みで言った。
「ねえカナタ!」
―――次のターゲットは、どうする?
クロサギの菜の花 亜月 氷空 @azuki-sora
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