祭りの終わり①
大きな勢力は争いを止め、各地の小競り合いも落ち着いたことから、世界は小康状態へと向かっていた。
「祭りも終わりか」
「ですねぇ。未だ、支配領域に侵略する自称冒険者……或いは、人類側の定義する解放者はいるみたいですけど、組織だっての動きは無くないましたねぇ」
「亡霊どもは?」
「んー、ヤタロウさんが目を光らせていますがぁ……残念ながらぁ……」
「拠点とか分かりやすい目印があればいいが……」
「無理ですねぇ……人類をすべて滅ぼすしかぁ」
今回の魔王祭。当初の想定以上に得たものもあったが……想定外に失うモノも多かった。
アスター皇国のメンツを……財産を傷つけた……怨嗟の亡霊どもは葬り去りたかった。
「根無し草の亡霊か……厄介すぎるな。万が一、また襲ってきたときを想定し、対策を考えておかないとな」
「顔も分からないので……対策は……」
「居場所も名前も……顔さえも分からぬか」
「シオンさん! 私たちは、今すべきことをしましょうぅ! と、軍……じゃなくて相談役として進言しますぅ」
「すべきことね……とりあえず、各勢力の現状を報告してくれ」
「ふふふ……そう言われると思いましたぁ――じゃじゃーん!」
カノンはそう言うと自身の身の丈の数倍ある大きな用紙――日本地図を目の前に広げた。
日本地図には各都道府県の現状と一口メモが記されていた。
北海道 道南が十三凶星の1人魔王マサキ。道北は人類。
一口メモ『常に一進一退の攻防を続けているので、魔王、人類共に練度が高いと予想されます』
東北 宮城県と岩手県を十三凶星の1人にして上級魔王スレッドにも参加しているセブンこと魔王スミレが支配。青森県と秋田県はすべての魔王が滅亡し、人類の統治区。山形県と福島県は人類と魔王が混在している。
一口メモ『人類、魔王共に争いには消極的な姿勢』『今回の魔王祭の影響が一番少なかった地域』
関東 神奈川県を十三凶星の1人魔王ユイが支配。東京都の八王子市、町田市、あきる野市を十三凶星の1人魔王ケイスケが支配――
――?
「おい、カノン」
「はぁい!」
「この魔王ケイスケとかいうのは……渋谷の魔王じゃなかったか?」
魔王ケイスケは、シティ派の魔王がいるもんだと、記憶に強かった。
「えっとですねぇ……少々お待ちを〜……ふむふむ、なるほど、なるほど……わぁ! 大事件ですね!」
カノンはスマートフォンで誰か……恐らくタスクと会話をして情報を収集しているようだ。
「お待たせしましたぁ! えっとですねぇ……なんか魔王祭が開催されてすぐに魔王ケイスケが東京全域を支配しようと攻勢に出たのですが……西――八王子市に侵攻している隙に本拠地となっていた渋谷とかを取られちゃったみたいですぅ」
「ほぉ……」
「なんでも、政府主導の東京浄化計画というのが発動されて……東京は凄かったみたいですよぉ」
「ほぉ」
というわけで、知らぬ間に東京は激変していた。
気を取り直して、関東の状況確認戻った。
関東 神奈川県を十三凶星の1人魔王ユイが支配。東京都の八王子市、町田市、あきる野市を十三凶星の1人魔王ケイスケが支配。東京湾を埋め立てて造られた『メガフロート』を中心に東京23区を日本政府が統治。千葉県は人類が追い出され複数の魔王による群雄割拠、埼玉県はすべての魔王が滅亡し人類が統治。茨城、栃木、群馬県は人類と魔王が未だ混在していた。
一口メモ『元々人口が多い地域だったので、生き残っている者は魔王、人類ともに個体としても組織としても強い』『未確認情報ではあるが人類最強の勇者がいるらしい……レベル200オーバー?』
「……は?」
一口メモを目にした俺は思わず間抜けな声を漏らす。
人類のレベル200って魔王でいうと……レベル40だろ?
今回の魔王祭を経て一番経験値を稼いだ魔王であると自負している
「人類って魔王と違って高レベルになってからの経験値の減少とかないのか?」
「ありますよぉ。魔王も魔物も……人類もすべからく平等に、魔王ならレベル10刻みに、魔物と人類なら50刻みで必要経験値が増大しますよぉ」
「だよな……」
国内で最高レベルの存在は俺だ……なんて、自惚れてはいないが……上には上がいるか……。
そういえば、十三凶星の連中ってレベルはいくつなんだ?
「カノン、十三凶星の魔王の中で……レベルがわかる奴っているのか?」
「んー、ちょっと待って下さいねぇ」
カノンは例によってスマートフォンを操作して、タスクに情報を求める。
「はいはぁい! タスクさん、ありがとうございましたぁ……シオンさん、わかりましたよぉ」
「ほぉ……最深層階層まで侵略された十三凶星がいるのか」
魔王のレベルを知る一番簡単な方法が……支配領域の階層を数えることだった。
しかし、俺を含め十三凶星なんて呼ばれる強大な魔王は最深階層まで侵略されることはなかった。
「先ほど話題に出た魔王ケイスケですぅ!」
「あぁ……本拠地を奪われたとか言ってたな」
「です、ですぅ!」
「んで、レベルは?」
「タスクさん曰く、必ずしも最深階層=レベルとは言えないので推測になりますが……」
「前置きはいい」
「41ですぅ」
「……は?」
「渋谷で人類に奪還された支配領域の最深階層は41階層だったとのことですぅ」
「ってことは、レベル41以上か……」
俺は、俺が思っている以上に井の中の蛙なのかも知れない……。
十三凶星だの、創生王だの持て囃されてはいるが……上には上がいる。
俺は今一度、気を引き締めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます