堕ちた黒き勇者②

 貸し1……?


 援軍でも送ってくれるのか?


 いや、あり得ない。


 俺と魔王ミユとの同盟は、人類に対しても上級魔王スレッドのメンバーに対しても秘密裏に交わされた盟約だ。


 魔王ミユにとって、俺との関係が露呈されることは何より避けたいはず。


 アホみたいに草を生やしていたから、魔王ミユではなくニーナとしてのお茶目なつもりのイタズラか?


 だとすれば、笑えないが……魔王ミユは良くも悪くも、聡明だ。


 それはないだろう。


 ならば、このメールの意味は?


 クソッ! こんな忙しいときに意味深な文面で送るなよ。


 魔王ミユから届いた謎のメールに、イラつきを覚え始めたその時――、


「シオンさーーーん! タスクさんから緊急連絡ですぅ!」


 肩にとまっていたカノンが自身のスマホを片手に大声で騒ぎ出した。


「緊急連絡?」

「はい! タスクさんから至急連絡欲しいとのですぅ」

「要件は?」


 これ以上の問題ごとはご免だ。


「えっと……何かネットが……世間が凄いことになってるらしいですぅ! それを踏まえて、シオンさんに進言をしたいらしいですぅ」


 ――?


 カノンの言っている意味がまったくわからない。これ以上、カノンを間に話していても埒が明かない。俺はスマートフォンを操作して、タスクに電話をかけた。


『タスクっす! シオンさん、ヤバいっす!』


 1コールも待たずに取られた耳元からはタスクの興奮した声が聞こえてきた。


「今、俺は戦時下にいる。要件を簡潔に話せ」

『りょ、了解っす。えっとっすね……リナさんが先ほど人類側のカメラに向かって啖呵たんかをきった姿が大バズりしてるっす』

「それがどうした? まさか……もう炎上したのか?」


 魔王シオンは人類を洗脳している……とか流れたか?


 クソッ……もっと早くに止めるべきだったか……。


 吸血種の魔王というだけで、すでに静岡県の人類から絶対的な敵視をされていたが……今度は人類全体を敵に回したか……。


『違うっす! 逆っす! 説明は難しいんすけど、リナさんの動画が異常なレベルで拡散されて、他にもシオンさんの……アスター皇国のポジティブな編集された動画が凄い勢いで拡散されているっす』


 ――?


「つまり、どういうことだ」

『今回のリナさんの言葉が何故か好意的に受け止められているっす』

「――?」

『えっとっすね……曰く、創生王ジェネシスは人類を庇護している。曰く、アスター皇国に保護された人類は安定した生活を送れている。曰く、リナちゃんっぱない! マジかわゆす! とか、そんな感じの声が至る所で上がっているっす!』

「……どういうことだ?」

『よくわからないっすけど、チャンスっす! 今ならアスター皇国側の人類が参戦しても、好意的に受け止められるっす! そこでヤタロウさんとマサコさんが急ピッチでコテツさんを中心に人類の増援を準備しているっす!』

「本当に大丈夫なのか?」

『リナさんの言葉は世間だけじゃないっす! アスター皇国の人類も燃えてるっす! お願いっす! コテツさんたちの参戦を許可して欲しいっす!』


 ――!


 なるほど。これが魔王ミユからの貸し・・か。


 今起きているこの不可思議な状況の原因は、魔王ミユによる得意の情報操作の賜物というわけか。


「タスク!」

『はい!』

「今起きている状況は一時の流れだ。この後――争いが終わった後も、今と同様に情報を――世間の流れを操作できるか?」

『……了解っす! アスター皇国の情報局局長として必ず完璧に情報操作をやり遂げてみせるっす!』

「ならば、良し! 人類の参戦を許可する!」

『了解っす! よく考えたら、情報操作じゃないっす! 真実を流すだけなので楽勝っすよ!』


 俺はタスクとの通話を終えると、


「リナ! 参戦を許可する! アスター皇国のために大いに暴れよ!」

「――! シオン、ありがとう! 心から感謝する!」


 その後、コテツを中心とした人類軍団と共にリナは最前線へと向かい、戦局を大きく揺り動かした。



  ◆



 6時間後。


 後に、十三凶星ゾディアックと同じくらいの知名度となる堕ちた黒き勇者――リナの活躍もあり、人類は岐阜市へと撤退。


 レイラたちの仇――亡霊たちを討ち取ることは出来なかったが、戦況が落ち着いたこともあり、俺たちもアスター皇国の支配領域へと撤退したのであった。

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