堕ちた黒き勇者①
「……カズキは! カズキは参戦を許されているのだろう!」
「アレは人類としてノーカウントだ」
「ならば……ならば……私も! 頼む……私にもレイラたちの敵討ちを……皆と同じアスター皇国の民として扱ってくれ……嫌なんだ……同じ配下なのに、仲間なのに……蚊帳の外に置かれるのは、もう嫌なんだ!」
蚊帳の外か。
リナは貴重な戦力で、替えの効かない人材だ。故に、安全面を配慮した命令をくだしていたことは多く、また人類の配下全般に言えることだが、対人類となる争いからは故意に外していた。
そのことを、一部の配下――特にクロエやレイラを筆頭とした熱狂的な配下が面白く思っていなかった……というのを耳にしたことはある。
この処置は差別ではなく、区別……或いは長期的な戦略方針と言っても伝わらぬか。
事実、アスター皇国は伝え聞く限りでは他の魔王勢力よりも、生活やインフラが充実している。
その理由は、自由意志を持つ配下――人類を民として迎え入れているからに他ならない。
まぁ、今回リナを外す理由は別なのだが……説明が面倒だ。ここは命令による強制的に帰還をさせるべきか。
リナよ、支配領域に帰還せよ! と命令を下そうとした、その時――、
「リナさん、今回は違うのですぅ」
「違うとは!」
「シオンさんが、リナさんの参戦を認めない理由は……いつもと違うのですぅ」
「何が違うのだ!」
「ほら? あそこを見て下さいぃ」
カノンが示した方向には、無機質な物体――ドローンが飛行していた。
「――?」
「ドローンですぅ。マスゴミ……人類はドローンを通して、今回の争いを大々的に公開しているのですぅ」
「リナ、静岡の嗜虐王とかいうバカを知ってるか?」
「今回の経緯を含め、簡単には……」
「ならば説明は不要だろ。帰れ」
「分かっている……分かっているはいるが……しかし――」
唇を強く噛み締め、声を漏らしていたリナが突然走り出したかと思うと、
「聞け! 私の名前はリナ! アスター皇国の戦士――リナ=シオンだ!」
ドローンに向かって、剣を掲げて叫びだした。
「おい!」
俺は慌てて静止しようとするが、リナの叫びは止まらない。
「私は見ての通り人類だ。人類であることは紛れもない真実だ! しかし、私は……私は自分の意思で剣を振るう! 聞け! 人類よ! これから振るう剣はアスター皇国の同志を……仲間を……家族を護るため、自分の意思で振るう剣だ!」
まとまりがなく、無茶苦茶にも聞こえる言葉をリナは叫び続ける。
「何も知らないお前達が勝手に判断するな! お前達の物差しで勝手に測るな! 私は……私は……大好きな……大切なアスター皇国の為に剣を振るう!」
思えば、リナが配下になって最初にパーティーを組んだのがレイラとフローラだったか……。
仲間想い、或いは帰属意識が高いと褒めるべきか、暴走するなと叱咤すべきか――。
置かれている状況を考えたら、叱咤すべきだろうな。
その後もドローンに向かって魂からの叫びを続けるリナを暫し眺めながら、王としてすべきことをしようとしたその時――、
〜♪
戦場に不釣り合いな電子音がポケットの中から聞こえた。
メール?
誰だ?
俺にメールを発信してくるのは、カノン、ブルー、ヤタロウ、田村女史の4人。
カノンは隣にいるし、ブルーは
ヤタロウか田村女史も俺が戦場にいると知っており、急ぎならば……電話、或いは配下を伝令に走らせるだろう。
普段なら気に留めることはないが……何故か気になり、俺はスマートフォンを取り出し、メールを確認した。
――?
『親愛なる創生王さまへ
貸し1なwww』
メールの中身は同盟相手であるニーナ……もとい、魔王ミユからの謎の文言だった。
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