総攻撃③

 総攻撃開始から10時間。

 戦況は圧倒的にアスター皇国が押しているのだが――、


「日の出時刻は?」

「5時20分ですぅ」


 あと1時間もすれば、憎き大敵――太陽が姿を現す。


 陽の光があたる場所では俺を含めた一部の配下が大幅な弱体化を余儀なくされてしまう。


 弱体化するのは、俺、サブロウを筆頭とした元吸血種の魔王。そして、イザヨイを筆頭としたヴァンパイアバロンだ。


 影響力が大きいのは、部隊を指揮する立場にあるサブロウとイザヨイ。チームJに関しては、サブロウ以外にも元吸血種の魔王が複数所属しているので、チームJ自体が戦力外になると考えるべきだろう。


 全軍を撤退させるべきか、弱体化する配下及びチームJのみを撤退させるべきか。


 超優位的な立場にあるとはいえ、全軍を撤退させるのであれば……そろそろ命を下す必要がある。


 んー、この勢いを殺すのは惜しいな。


 全軍撤退を毎日続ければ、いずれその周期は弱点となり対策を取られるだろう。


 ならば――、


 ――全軍に告ぐ! 進軍する足を止め、周囲にいる敵を掃討せよ!


 ――イザヨイ、サブロウの部隊は10分後より、支配領域に撤退! 周囲の配下は撤退がスムーズに進むように、フォローせよ!


 ――周囲の敵を掃討後は、兵糧を運搬する。タカハル、クロエ、ヒビキの部隊の順に4時間ずつ休息。12時間後に再度総攻撃を仕掛ける。


「こんなもんでいいか……俺たちも撤収するぞ」

「はぁい」


 陽の昇っている時間はジリジリと前線を押し上げ、陽が沈んだら総攻撃。


 当面は、この作戦で様子をみるか。


 陽のない創られた空間――支配領域では無敵だったが、遠征に向かない自分の種族を恨めしく感じながら、戦場を後にした。



  ◆



 総攻撃開始7日目。

 魔王祭カオスフェスティバルが開催から、約2ヶ月。


 愛知県の支配者――鉄風王ストームハヤテことサティは、三重県の半分を支配することに成功し、大阪府の支配者――虐殺王ジェノサイダールナことナナは奈良県全域を手中に収めることに成功し、長野県の支配者――正体不明シークレットミユことニーナは山梨県の一部を支配することに成功。


 また、今回の連動と関係はしていないが……九州北部の支配者――戦姫王プリンセスメイことヤオイが熊本県の半分を支配することに成功していた。


 その他にも、同盟相手であるカオルがこっそりと福井県の県北を支配することに成功していたり、逆に京都の人類の集団が京都で生存していた魔王を滅亡させたりと……掲示板で結託した魔王以外の勢力にも様々な影響を与える結果となっていた。


 そんな中、我がアスター皇国は――


「レイラたちを消滅させたかたきの件はどうなってる!」

「なかなか見つからないみたいですぅ……。被害報告は挙がるので……戦場にはいると思うのですが……指揮している訳でもないので……特定するのが困難な状況らしいですぅ」

「チッ」

「うぅ……舌打ちはよくないですよぉ」


 苦戦を強いられていた。


 敗因は、勢いに任せて総攻撃を仕掛けてしまったことだろう。


 最初はよかった。


 意気揚々と圧倒的な戦力差で、人類どもを蹂躙することに成功した。


 しかし、吸血種の弱点である――活動時間の関係で、どうしても昼間は勢いは下がってしまう。そして、その習性を見破られた3日目あたりから人類に対策を取られはじめた。


 元々、予定外だった総攻撃。


 上級魔王スレッドの面々に、『統治はしない』と宣言した以上、適当に土地を奪い取って収めることはできない。


 人類が総撤退でもしてくれれば、こちらも矛を収めやすいが……昼間は勢いが下がる関係から、押し切るには至らず、いたずらに長期戦となっていた。


 せめて、怨嗟の亡霊共を殺せれば、大義名分である仇討ちを果たせるのだが……如何せん、奴らはリーダーでもなければ、中心人物でもない。


 神出鬼没に現れるという迷惑極まりないスタイルのせいで、殺すことも、捕えることも出来ずにいた。


 せめて、昼間もまともに戦えれば……。


 こうした悩みが解決することもなく、泥仕合のように互いが消耗を続ける争いを続けていると――、


「シオン! 私にも参戦の許可を……!」


 声を掛けてきたのは、初めて俺の配下になった人類・・――リナだった。


「戻ったのか」

「言われた通り、新潟に存在していた2人の魔王の討伐は完了させた」

「ほぉ……早いな」

「主力を倒してしまえば、相手はジリ貧になる一方だからな」

「なるほど、ご苦労さん。とりあえず、今は休め」


 リナとコテツの部隊を投入すれば、かなりの戦力強化に繋がる。現状の打破もできる可能性は十分に見込めるが――リナもコテツも残念ながら人類・・だ。


 ただでさえ吸血種の魔王というだけで、いらぬ憎悪を受けているのに……ドローンが飛び回っているこの戦場に人類であるリナとコテツを投入することは、今後を考えると大きな負債になるだろう。


「シオン!」

「休め……これは命令だ」

「……頼む。私も……私もアスター皇国の一員なんだ……レイラもフローラも……向こうはどう思っているか分からなかったが……私にとっては苦楽を共にした大切な仲間だったんだ……」

「支配領域に帰還し休め」


 目に涙を浮かべながら懇願するリナに、俺は変わらぬ答えを返すのであった。

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