総攻撃

 某日、18時00時。


 日の入りまで後5分。憎き太陽も、今は地平線と交わり消え去る寸前だ。


「人類の様子は?」

「ハッ! 人類の愚か者どもは我輩の……いや、シオン様率いるアスター皇国の威光に恐れ慄き、鳴りを潜めておりますぞ」


 タカハルとサラに聞くと、大雑把な情報しか分からない。ヒビキに聞くと、詳細な情報がわかるが不要な雑音も入ってしまう。イザヨイに聞くと、ありのままをすべて教えてくれるが、創造された配下故に柔軟性に欠けてしまう。


「サブロウ」

「ハッ!」


 サブロウが鼻をプクッと膨らませ、嬉しそうに答える。


 しかし、サブロウに聞くと、面白スライムと共にトンチンカンなことを言い出す可能性が高い。


「状況を知りたい。マオを呼べ」

「――!?」


 故に、状況を知るために俺はマオを指名した。


第十災厄ディザスターテンマオ、参上しました」

「状況を説明せよ。私見を交えて話すことを許す」

「我輩の私見によりますと――」


 ――《ファイヤーランス》!


「ハァァアアン!?」

「マオに限り私見を交えることを許す。サブロウ、次に要らぬ茶々を入れたら……わかるな?」


 サブロウは焦げ臭さを漂わせながら、首を何度も縦に振った。


「え、えっと……一番最初に出たのは私たちの部隊――チームJでした。人類は油断していたのでしょう。支配領域から出てきた私たちを見て、暫しの時困惑しました」

「なるほど、それで?」

「その隙をついて、総帥は先制攻撃を仕掛け、大きな成果を挙げることに成功しました」

「ほぉ」


 総帥サブロウと言ってはいるが、恐らくマオの指示だろう。


「その後、各支配領域から人類を掃討した幹部の皆さまが姿を現し、最後に出現したタカハル様が大気を揺るがすほどの咆哮を挙げると、人類どもは蜘蛛の子を散らすように退散。我々はシオン様の指示を待つために待機。状況報告は以上となります」

「報告ご苦労」

「え、え、えっと……せ、僭越ながら私見を申し上げますと……人類てきは錯乱しております。現在もこちらより1km離れた地点にて、落ち着きのない様子にて陣を張っています」


 落ち着きのない様子?


 まるで見てきたかのような言葉だ。


「偵察済みなのか?」

「で、で、出過ぎた行為、失礼しました。第一災厄ディザスターワンが擬態し、偵察しておりました」

「問題ない。それで、結論は?」

「は、はい。人類てきは組織だって行動していることから、明確な指示系統があると思います。しかし、現在はその指示系統が混乱しており、前線が浮足立っていると思われます」

「で、結論は?」

「は、はひ……足並みを揃えるよりも、速度に重きを置き、可及速やかに、攻撃を仕掛けるべきかと! ち、チームJであれば、災厄ディザスターの面々及び一部の配下は、原付ウィングフォームを駆使し、速攻を仕掛けることが可能です」


 ウィングフォームって原付のことか?


 チームJアホに毒されたマオのセンスは置いといて、進言の内容は有用か。


「サブロウ!」

「ハッ! ここに!」

「原付部隊を動員し、速攻を仕掛けよ!」

「ハッ! 畏まりました!」


 次いで、速攻と言えば……原付部隊よりもよっぽど速いタカハルたちか。


「タカハル!」

「おうよ!」

「足の速いメンバーを厳選し、サブロウと共に速攻を仕掛けよ!」

「原付野郎に先駆けて一番槍でも問題ねーよな?」

「はーい! はーい! あーしもタカっちの後ろに乗って援護みたいな」

「構わん。機動性を重視し、愚かなる人類どもに誰を敵に回したか、教えてやれ」

「ハッ! 最高だな! シャッ! ワーウルフども! 気合を入れてついてこいよ!」

「ワォォオオオオン!」


 タカハルは単車に跨り、エンジンを吹かす。


「ヒビキ、イザヨイの部隊も同時に攻め上がれ!」

「畏まりました」

「我が主の御命みことのままに!」


 すべてが同時に進軍しても速度差が生じる。上手くハマれば、自然と波状攻撃になるだろう。


「シオン様、私にも汚名をすすぐ機会を!」


 隻眼となったクロエが片膝をついた姿勢で懇願してくる。


「傷はいいのか……?」

「問題ありません!」

「死ぬことは許されぬぞ?」

「……はい!」


 クロエの残された左眼からは強い意志を感じる。後ろを見れば、レイラとフローラの元配下たちだろうか。多くのヴァンピールとリリムがクロエと同様に目に強い意志を宿らせ、静かに俺を見ていた。


「ヒビキ、イザヨイの部隊と共に攻め上がれ」

「――! ありがたき幸せ! 必ずや……必ずや……ご期待に応えます!」


 クロエを筆頭にヴァンピールとリリムたちが深く頭を垂れた。


 ――魔王シオンの名において命ずる! 全部隊、攻撃を仕掛けよ! 愚かなる人類どもを蹂躙せよ!!


「「「うぉぉぉおおお!」」」


「シャッ! 行くぞ! おめーら!」

「「「ワォォオオオオン!」」」


 土煙を上げながら疾走するタカハルを先頭に100万を超える配下たちが一斉に進軍を開始したのであった。

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