反撃

(タカハル視点)


「っしゃ! おい! 聞いたか? 遠慮無用だってよ!」

「あーしは、おいじゃないし! サラだし!」

「このまま稼ぎ続けても良かったが、適度に手を抜くのはダルかったしな」

「って! タカっち相変わらずゴーイングマイウェイ! あーしの話聞いてる?」

「あん? 聞いてるわけねーだろ」

「ありえんてぃ!」

「さてと、んじゃ……大将の言い付けを守って塵芥どもを一掃するか!」

「ムキーッ! 独り言? 独り言なの? 独り言なら声デカすぎっしょ! マヂ卍!」

「行くぞ! てめーら!」

「「「ワォォオオオオン!」」」


 俺は配下のウェアウルフどもを引き連れ、塵芥の一掃に向かった。


「き、来たぞー! じゅ、獣王だ!! 創世王ジェネシスの眷属の獣王が来たぞー!!」

「レベル50以上のタンク職は前に!! 盾を構え、抑えろ!」

「任せろ! 奴は強い……が、俺達の盾を破れないのは証明済みだ! 獣王は俺達が抑える! お前たちは周りのオオカミどもを駆逐してくれ!」

「「「おー!」」」


 どこで調達したのか……ミスリル製の防具に身を包んだ人類の集団が、俺を囲むように盾を構える。


「あん? 今なんつった?」

「ひ、ひぃ……」


 抑えきれず漏れ出た怒気が《威圧》と化して、愚かで脆弱な人類どもを震え上がらせる。


「う、狼狽えるな! く、く、来るな――」

「オラッ!」

「――な!?」

「い、一撃……だと!?」


 カタカタと上下に震える盾を俺の神器――『きわみ』を纏った拳が突き破る。


「あん? どうした? 止めれるんだろ? おら? どうした? 止めろよ! 止めてみろよ!!」

「あちゃー。タカっち激おこモード突入みたいな? おーい! あーしの分も残しといてねー」


 後方から聞こえる駄エルフの声を無視し、俺は憤怒の暴風と化して人類どもを駆逐し続けた。



 3時間後。


「ん? おかわりはどうした?」

「打ち止めみたいな?」

「あん? 無限じゃねーのかよ!」

「あはは……んな訳ねーし。タカっち相変わらずおバカっしょ」

「誰がバカだよ!」

「タカっち?」

「クッ! この駄エルフが!」

「にしし」

「んで、どうすりゃいいんだ? 外に出るのか? それとも他の支配領域に行けばいいのか?」

「んー、どだろ? シオンっち、聞こえてるー?」


 ――今から《転移装置》を設置する。三〇五に移動し、人類どもを掃討せよ。


「三〇五? 総攻撃じゃねーのか?」


 ――攻撃だ。故に、足並みを揃える。


「ここはどうすんだ?」


 ――俺が受け持つ。


「ん? いいのか? ここにはもう敵はいねーぞ?」


 ――お前が些細なことを気にするな。それとも、前線を引いて、作戦本部への異動を希望なのか?


「だー! 無理、無理! 勘弁してくれ」


 ――ならば、今はすべきことをしろ。


「あいよ、了解」

「あーい! だいじ(大丈夫)、だいじ(大丈夫)。タカっちのことはあーしが見張ってるから」

「あん? 誰が、誰を、見張るって? リーダーは俺だぞ」

「にしし、あーしは影のリーダーみたいな?」

「クッ、この駄エルフと話していても時間の無駄だ……行くぞ! てめーら!」

「「「ワォォオオオオン!」」」



  ◆



(シオン視点)


 12時間後。


 俺はタカハルが掃除した第三〇一支配領域で、カノンと共に大量の配下に囲まれながら、戦況を確認していた。


「お! 一掃しましたねぇ」

「一掃というか……退いたな」


 ここ数時間で今までにないくらいに、人類を倒した。


 しかし、襲撃を仕掛けていたすべての人類を倒したのか……と言われると、答えは否だ。


 突然激しくなった反撃に、人類は驚いた……或いはなにかを察した結果――退いたのだろう。


「ふっふっふ……いよいよアスター皇国の反撃ですねぇ」

「だな。あのアホの言葉を借りるなら、鎮魂歌レクイエムを奏でる時間だな」

「あはは。同じ台詞なのに、シオンさんが言うと様になりますねぇ。魔王補正ですかねぇ? それとも吸血鬼補正でしょうかぁ?」

「どうだろうな? 吸血種というなら、アレもそうけどな」

「あはは……レイラさんがいたらクロエさんと一緒に、シオンさんとアレを同列に語るな! と怒っていたでしょうねぇ」

「だろうな。んで、フローラがそんな2人を見て、楽しそうに笑うんだろうな」

「ですねぇ……もう、あの2人は本当にいないんですねぇ……」


 カノンは目に涙を浮かべながら、遠くを見つめる。


「感傷に浸るのは後だ。今の時刻は?」

「はい! 16時ですぅ。現在はあいにくの晴れ模様。日の入りは18時5分となりますぅ」


 カノンは1つの質問で、俺の知りたかったことをすべて答える。


 ――総員に告ぐ! これより2時間後、1805ヒトハチマルゴーより総攻撃を仕掛ける! 各自、万全を期して体制を整えよ!


 俺は手にした槍を強く握りしめ、日の入りを静かに待つのであった。

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