怨嗟の亡霊
「あいつら……か。そのモノたちの詳細を話せ」
俺はダイスケの話したあいつら――
「いいですが……本当にあいつらはレベルが高いだけのチキン集団ですよ? とてもじゃないですが、
「馬鹿かお前は?」
「……え? し、失礼しました……何か失言をしたならお許しを……」
思わず俺の口から漏れてしまった本音に、ダイスケは恐れ慄き、地に頭を擦り付ける。
「この世界の人類に
魔王ならば……或いは存在するかも知れない。しかし、人類ならばレベルが高いだけの存在というのは無理がある。
「え?」
「お前たち人類がレベルを上げる手段は?」
「え、えーと……経験値を稼ぐ、でしょうか」
「どうやって経験値を稼ぐ?」
「て、敵を……魔物を倒して稼ぎます……」
ダイスケは顔を真っ青にして答える。
「正解だ。経験値……経験値か。口にし、その意味を冷静に考えると、中々にして、いい得て妙な単語だ。経験値――つまりは経験した値が蓄積し、レベルアップすると……いうことだな?」
「は、はい……人類はそのような形でレベルアップしていました」
「魔物……だけじゃないか、【カオス】も同様のプロセスだ」
厳密に言えば、魔王だけは配下が得た経験値の一部を蓄積出来るが……いちいち言う必要はないだろう。
「……は、はい」
俺が何を言いたいのか、まったく理解できないダイスケが腑に落ちない表情を浮かべる。
「レベルにステータス、魔物に魔法と……まるでゲームのような世界観だが、この世界はゲームじゃなく、現実だ。レベルを上げるためには敵を自分の力で倒す必要がある。
俺の言葉を聞いて、ダイスケの表情が固まる。
「ましてや、高レベルともなると倒さなくてはいけない敵の質は高まり、数は膨大なものとなる……と、そんな常識は元勇者のお前には釈迦に説法か」
「い、いえ……」
「さて、元勇者のダイスケよ、教えてくれ。この世界にレベルが高いだけの弱き人類は存在するのか?」
「……そ、存在しません」
ダイスケは震える声で答え、地に頭を擦り付けた。
「別に詰問している訳ではないのだが……そんなことより、本題に戻ろう。改めて、問おう――
「は、はい。あいつらは、静岡出身の人類です。噂レベルとなりますが、地元では勇者として活躍していたモノもいたそうですが……あまりに臆病というか……その、なんて言うんすかね……協調性に欠けるので、勇者を剥奪されたとかなんとか……」
臆病? 協調性に欠けるの? 勇者を剥奪された?
「臆病とは?」
「レベルが高いから最初は色んな人から期待されていたのですが、議会の決議に従わないというか……毎回なんやかんや理由を付けて逃げるんすよ」
「議会……?」
「あ! えっと、セントラルエリアの上層部……政治家とか大企業の社長の集まりで、方針とかを決める機関です」
「ほぉ……」
「ちなみに、セントラルエリアは、本拠地は岐阜市で、議長は愛知の元県知事です。愛知、岐阜、静岡、山梨、福井……後は、石川や富山や長野から逃れた人類が集まって出来た組織です」
愛知、岐阜、静岡、福井の人類が集まった寄合だとは思っていたが……石川とかも入るのか。
「思ったよりも規模が大きいな」
「規模は大きいですが、関西にあるヤーさんの組織とか学生連中の組織と比べると、帰属意識が低いこともあり、団結力に欠けるというか……緩い組織ではあります。まぁ、そんな組織だから、あいつらみたいな存在も許された……ってこともありますね」
「そいつらは、上の命令を聞かない――アウトロー的な連中ってことか?」
「んー、アウトローというと、なんかイメージが違います」
俺の質問にダイスケは首を傾げる。
「どういうことだ?」
「アウトローというと、自己中心的な反社会的な……イメージですよね?」
「そうだな」
「あいつらは……そういう存在じゃなくて……むしろ真逆……?」
「真逆?」
「無気力というかなんというか……目も常に虚ろで、まともにコミュニケーションも取れない連中で……あ! そういえば、あいつらは嗜虐王の犠牲者らしく……そこで精神がぶっ壊れたなんて言う奴もいました。んなこともあって、あいつらのことを亡霊なんて呼ぶ奴もいました」
嗜虐王……またここで出てくるのか。
せめて、生存していれば討伐することでイメージ戦略に利用できたのだが……散々ヘイトをばら撒いて、あっさりと消滅するとか……本当に迷惑極まりない存在だ。
「ということは、実際には戦場には出ていない、と?」
「いえ、命令系統には従わないだけで……集団に紛れ込んでいたという話はチラホラ聞いています」
「よくわからん連中だな」
「はい。あいつらは魔物を……【カオス】を殺すことのみに執着しているとか言っている奴もいましたが……真偽は不明です」
ダイスケは噂話が好きなのだろう。次から次と噂話とやらを聞かせてくれた。
「つまり、あいつらの正体は元静岡の勇者。そして、嗜虐王の被害者。高レベルだが、上の命令系統には一切従わず……ただただ戦場に繰り出して魔物を消滅させることにすべてを費やしている存在――怨嗟の亡霊であると」
「はい」
んー、なんとも厄介な連中だ。
正体はなんとなく分かったが……対応方法が思い付かない。
イライラする……本当にイライラするな。
「わかった。下がっていいぞ」
さて、どうすべきか?
俺は1人部屋に残り、頭を悩ませるのであった。
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