あいつら

 トンッ! トンッ! トンッ!


「敬愛なる支配者――シオン様。チームJ総帥サブロウ、第零災厄ディザスターゼロと共に、くだんの者を連れて参りました。入室よろしいでしょうか?」


 ノックされたドアの向こうから、サブロウの声が聞こえた。


「許可する。入れ」

「失礼します」


 落ち着いて話を聞くため用意した個室に、サブロウとカズキに連れられ1人の男が入室してきた。


「その者か?」

「はい。この者がリーダー格です」

「名は?」

「……お、大山オオヤマ大輔ダイスケです」

「――! ダイスケ!」


 ――?


 連れられた元勇者――大山大輔が名乗りを上げると、カズキが目を見開き、激昂する。


 名を偽ったのか?


 どうせ眷属にしてしまえば、偽りは出来ぬ身となるが……俺をあざむくか。


 まだ抗える気力があると褒めるべきか、俺を欺いたことに対する代償を教えるべきか……。


「……大輔。大山大輔です」


 改めて、大山大輔が名乗るとカズキは満足そうに何度も首を縦に振る。


「流石は原初たる災厄、ゼロ。教育は完璧ですな。少し間をあけて名前を最初に言ってから、フルネームを名乗る。それこそが混沌カオスの紳士たる者の礼節――」


 ――《ファイヤーランス》!


「ハァァアアン!?」


 目の前の汚物サブロウが暴走しただけのようだ。


「ダイスケと言ったか」

「……は、はい」

「率直に問う。アスター皇国の臣民になる気はあるか?」

「お、俺1人なのか……なのですか?」

「今は、な。残りの2人についても、強制はしない。同様の選択を与える予定だ」

「えっと、質問をしてもいい……でしょうか?」

「今は時間が惜しい。質問をするなら、簡潔に、1つだけだ」

「え、え、えっと……えっと……ちょ、ちょ……」


 ダイスケは分かりやすく狼狽する。


 クソッ……。今は一分一秒でも時間が惜しい。歯切れの悪いダイスケに苛立つが、ここで癇癪を起こしても結果的に遠回りになるだけだ。


 耐えろ……今は我慢の時だ……。


「ダイスケ! 頼む……俺を失望させないでくれ。何を悩んでいる! お前の正義とは何だ! 護るべきモノは己の自尊心か! それとも、助けを求める人々か! ――答えよ!」

「カ、カズキさん……」

「ダイスケ?」

「……第零災厄ディザスターゼロ

「もう大丈夫だよな?」

「は、はい!」


 目の間で繰り広げられている茶番はなんだ……?


 最終的に、カズキとダイスケが熱い握手を交わしている。


「茶番はもういいか……?」

「シ、シ、シ……シオン様、申し訳ございません!」


 俺の心中をようやく読み取れたのか、サブロウが地に頭をつけながら滑り込むと、


「――! 総帥! クッ……ダイスケ! 覚悟は決めたか!」

「は、はい!」


 カズキに力強く背を叩かれた、ダイスケが真剣な面持ちで俺と向き合った。


「シオン様との子となる覚悟定まりました! まだまだ未熟ではございますが、俺に……この俺に盃をおろして下さい!」


 子って……どこの極道だよ。


 こうして【血の杯】を受け入れ、契約コントラクトを終えたダイスケが眷属となった。



  ◆



「気分はどうだ?」

「……不思議な感覚です。先程まで皆さまに強く感じていた畏怖が消え去りました」

「そうか」

「改めて、総帥、カズ……いや、零の兄貴! ありがとうございました! これからは俺もアスター皇国の剣として精進します!」


 零の兄貴って……カズキはどう見ても10代後半〜20代前半に対して、ダイスケは30代だろ……。


 道化軍団には疑問を感じるだけ無駄だったな。


 俺は本題に戻ることにした。


「サブロウ」

「ハッ!」

「こいつに事情は説明してあるのか?」

「はい。簡単にではございますが……」

「ならば、単刀直入に問おう。我が国の幹部……レイラとフローラを消滅させた者に心当たりはあるか?」

「幹部様を消滅させた者ですか……ちなみに、そのお二人はどのくらいの強さなのでしょうか?」

「個々ではサブロウやカズキに負けるかも知れないが、2人セットならば……互角かそれ以上の強さはあったと思う」

災厄級ディザスタークラスですか!?」


 災厄級ディザスタークラスってなんだよ……。


 チーム道化のメンバーと同程度かそれ以上の強さって認識でいいのか?


「そうだ」

「んー、しかも……瞬殺ですよね? そんな化け物……人類にいたかな……」

「例えば、お前よりも強い人類はどのくらいいるのだ?」

「この国に……と問われたなら、答えは申し訳ございませんが……分かりません。俺たちもかつては勇者と呼ばれた身、弱くはないと思ってはいますが……」

「今、この国を侵略している組織――お前が所属していた組織内に限ると、どうなる?」

「セントラルエリア内でしょうか?」

「そうだ」


 ダイスケは宙を見上げ、必死に記憶を探る。


「んー、そうですね……俺よりも強い人類がいる可能性はありますが……災厄級を瞬殺する強さですよね……んー、そこまで強いとさすがに知らないってことは、ないと思うのですが……」

「ダイスケ、あの話をして下さい」


 悩み続けるダイスケに、カズキが声をかける。


 あの話?


「え? あいつらの話ですか?」

「そうです」


 あいつら?


「あいつらはレベルが高いだけのチキン集団ですよ。とても、とても災厄級を消滅させる力が――」


 ――ん?


「待て! 今、なんと言った?」

「あいつらには災厄級を消滅させる――」

「違う!」

「……え、えっとチキン集――」

「その前だ!」

「え、えーと……レベルが高いだけの・・・・・・・・・チキン集団ですよ……ですか?」


 それだ。


 俺はダイスケの話にようやく興味を引かれたのであった。

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