謎の強敵?

「イザヨイ! この場は任せたぞ!」

「ハッ! シオン様、畏まりました」


 俺はイザヨイにこの場を指揮を任せ、《転移B》で自室へと帰還。


「ヤタロウ! 何が起きた!」


 帰還するや否や、俺は視界に入ったヤタロウへと詰め寄った。


「うむ……すまぬ、儂も詳しいことはわからぬのじゃが……レイラとフローラが消滅したと……」


 ――!


 言い淀むヤタロウの視線の先には、血にまみれたボロボロの状態で、倒れるクロエの姿があった。


「シ……オン……さ……ま、も、申し訳……ござい……ま……せん」


 クロエが吐息にも等しい消え入るような声を漏らす。


「ヤタロウ! 薬の準備を! リリエルだ! リリエルを呼んで回復魔法を施せ!」


 コワレタこの世界は、まるでゲームのようなファンタジーのような世界であるにも関わらず、一瞬ですべての怪我を癒やすといった回復手段は存在していない。


 回復薬と回復魔法は存在するが……効果は痛みを緩和し、自然治癒力を高めるだけだった。


 クソッ!


「ヤタロウ! 監視は! 何がどうなっている!」


 現在、侵略されているすべてのダンジョンはヤタロウの管理下にあるため、俺とヤタロウは配下の目を通してダンジョンの様子を逐一確認することが可能だ。そして、監視の目として大量のラットとジャイアントバットとスライムを投入していた。


「当然確認はしておった。24時間常に三〇三を観ていた訳ではないが、10分と目は離しておらぬ」

「数か! 質か! どっちだ!」

「三〇三に対して過剰な数の侵略者が投入されておらぬし、そのような形跡も残ってはおらぬ」

「ならば、質か! 人類側の最強戦力……どこぞの勇者の仕業か!」

「……と思うのじゃが……儂の目には……そのような強者の姿は確認できなかったのじゃ……」


 強者というのは画面越しであっても、一目で分かる。佇まい、装備……なにより配下を倒す技量を見れば、一目瞭然だ。


 監視をするときは、敵の数はもちろんだが、そのような強者――人類側なら勇者、魔王側なら眷属が混ざっていないかを確認するのは防衛の基本作業だ。


「どういうことだ! 何が起きた! 何が起きて、レイラとフローラは消滅したのだ!」


 俺は感情のままに声を荒げ、叫んだ。


「……シオン様」


 ――!


 回復薬と回復魔法による治療が効いたのか、全快にはほど遠く、倒れたままではあるが先程よりも明瞭なクロエの声が聞こえた。


「クロエ! 大丈夫か!」

「……はい。この度は申し訳……ございません……」

「クロエ、先に1つだけ告げておく。今は深刻な時だ。己の命を軽視するような、無駄となるような発言は一切するな。……わかったな?」

「……は、はい。申し訳――」

「謝罪もいい。とりあえず何が起きたのか、簡潔に話せ」

「……はい――」


 その後、拙いながらも紡がれたクロエの話を纏めると――、


 最初は楽勝ムードだった。

 この話のくだりから、何度も何度も慢心した自分を許せないと言うクロエには辟易した。


 しかし、突然フローラが消滅した。

 どういうことだ? と聞くと、この時は突然としか感じない程に……突然フローラが消滅したらしい。


 更に問い詰めたことで、ようやく今回の原因が判明した。


 侵略者の中に複数人の強者が紛れ込んでいたようだ。


 その者たちは、よくいる強者――勇者連中とは違い、名乗り上げることはなかった。また、装備も一般的な装備で、顔もパッとせず――ただ、瞳だけが闇に濁っていたらしい。


 その後、その者たちはターゲットをクロエに選定。


 クロエは消滅こそ免れたが……突然とも思える奇襲で片目を失った。


 そんな負傷したクロエを助けるべくレイラが飛び出した。


 しかし、その者たちの強さはクロエとレイラを上回っていた。


 勝てないと判断したレイラは周囲の配下を指揮し、身を挺して俺に部隊長を任された・・・・・・・・・・クロエを逃がした。


「強者なのに名乗りを上げなかった……? 勇者ではないということか?」


 強者=勇者なのか、と問われれば――答えは否だ。


 勇者というのは人類側の希望だ。


 そこそこの数が存在しており、残念ながらユニークな存在ではないが、自称してなれるものではなかった。何らかの団体もしくは大衆に、認知され、認められ、公言されて初めてなれる存在だ。


 そんな存在だからこそ、名乗りは味方の士気を高める効果があり、名乗らず、目立たずという勇者は存在しない……といっても過言ではなかった。


「性格に難アリで勇者になれなかった……とかですかねぇ?」

「んー、レイラとフローラを倒せるほどの強者を、勇者認定もせずに、人類側が放置するか……?」

「――! ハッ! ひょっとして、どこぞの魔王の眷属とかっ! コレですぅ! 『瞳だけが闇に濁っていた』……私はこの言葉がずーっと引っかかっていたのですぅ」


 カノンは、正解を閃いた! と言わんばかりに鼻の穴を膨らませ、興奮気味に捲し立てる。


「どこぞの魔王の眷属……ね。その推理は無理があるだろ」

「えーーー! 何でですかぁ!」

「人類は本能で俺たち――【カオス】を敵視するんだろ? そんな関係性で共同戦線は無理だろ」


 クロエに聞いた限り、連携とまでは言わないが……謎の強者と人類側は共同戦線を張っていた。同じ陣営と考えたほうがいいだろう。


「ほらぁ! そこはアレですよぉ! 私たちも人類を眷属や民にできるように、人類側も何かしらの理由で私たち【カオス】を管理下にする手法があるとかぁ……?」

「人類が【カオス】側の戦力を管理下にする……か。その可能性、無くは無いだろうが……もし、そうならもう少し目撃情報があってもよくないか?」

「ここぞという時の奥の手みたいなぁ?」

「人類側の奥の手か……。とりあえず、情報を集める。まずは、元中日本の勇者連中から話を聞くか」

「中日本……? ――! セントラルエリアの勇者ですねぇ」


 アスター皇国の幹部を――レイラとフローラを消滅させた者には必ず報いを受けさせる。


「サブロウ!」


 俺はドス黒い復讐心を心に秘め、元中日本の勇者連中を預かっているサブロウを呼び出すのであった。

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