急転

 タカハルたちが帰還した翌日。


 ヤタロウと話し合い、防衛ラインを見直すこにした。


「えっと、人類側の侵略状況は?」

「一番苦しいのは、第三〇一支配領域で15階層まで侵略されておるな」

「一番苦しくて15階層……かなり盛り返してるな」

「ふぉっふぉっふぉ。育成縛り中で、この結果じゃな」

「頼もしい限りだ。ちなみに、他の状況は?」

「うむ。他は――」


 現状、侵略されている階層は――、


 第三〇一支配領域が15階層。


 第三〇二支配領域が12階層。


 第三〇三支配領域が7階層。


 第三〇四支配領域が13階層。


 第三〇五支配領域が10階層となっていた。


「ってことは、やりすぎなくらい戦闘狂のタカハルを第三〇一階層に配置するか。後は――」


 結果、防衛ラインは――、


 第三〇一支配領域に、タカハルとサラの部隊を配置。


 第三〇二支配領域に、ヒビキとレッドの部隊を配置。


 第三〇三支配領域に、クロエ、レイラ、フローラの部隊を配置。


 第三〇四支配領域に、チームJの部隊を配置。


 第三〇五支配領域には、俺、イザヨイ、ブルーの部隊を配置とすることにした。


「シオンも出るのか」

「経験値を稼ぎがてら……カノンも育てたいからな」

「……え?」


 俺の肩に勝手に止まっていたカノンがフリーズするが、それを無視して、ヤタロウとの話を進める。


「ふぉっふぉ。儂も稼いだほうがいいかのぉ?」

「俺と同時に前線に出ると指揮官が不在になるから、稼ぎたいなら俺と交代だな」

「頃合いを見て、交代の指示を頼むとするかのぉ」


 ヤタロウは顎髭を触りながら、軽快に笑う。


「今回の祭りに参加した上級魔王メンバー――十三凶星ゾディアックの中で一番領土を拡大できなかったのは……俺になるだろう。ならば、せめてもの救いに経験値を存分に稼ごうか」

「ふぉっふぉっふぉ。創世王ジェネシスシオンの手にかかれば、ピンチもあっという間にフィーバータイムに急転とは……ほんに儂の主は恐ろしい魔王じゃ」


 魔王祭カオスフェスティバルが終演した時、一番成長しているのが自分となるべく、俺は防衛の準備を始めるのであった。



  ◆



 タカハルたちが帰還してから7日後。


 タカハルたち幹部の活躍は凄まじく、防衛は順調の一途をたどっていた。


 現状、侵略されている階層は――、


 第三〇一支配領域が7階層。


 第三〇二支配領域が8階層。


 第三〇三支配領域が5階層。


 第三〇四支配領域が9階層。


 第三〇五支配領域が7階層となっていた。


「大変革が起きて、人類の数が激減したと聞いていたが……本当なのか? 叩いても、叩いても、無限リポップかと思えるほどに沸いてくるぞ」

「無限リポップって……ヤタロウさんじゃないんですからぁ、何でもゲームに例えるのは良くないですよぉ」

「あそこまで狂ってねーよ。んなことより、よそ見をするな……ほれ、アレにトドメ刺してこい」

「はぁい……――《ファイヤーアロー》!」


 カノンの放った火の矢が瀕死となっていた人類に降り注いだ。


「しっかし、人類側は粘りますねぇ……普通だったらとーーっくの昔に逃げ帰ってますよぉ」

「上層部が混乱しているのか……内部で面倒な駆け引きとかがあって、引くに引けない状況とかなんじゃね?」

「政治……みたいな感じですかねぇ? あー、イヤだ、イヤだ。こうやって考えるとぉ……人類側の民主主義よりアスター皇国が敷いてる絶対王政のほうがよっぽと健全ですよねぇ」

「敷いてるというか……魔王側だと選択肢はそれ一択だからな」


 魔王は、配下と領民に対しての絶対的な命令権がある。故に、政治の形態は絶対王政一択だ。仮に、戯れで民主主義を採用したところで、絶対的な命令権がある以上……それは形式だけのおままごとになるだろう。


「シオンさんヨイショとかじゃなくて、私は絶ーーーっ対に民主主義より絶対王政のほうが優れていると思いますぅ」

「俺を抜きにしても民主主義より絶対王政のほうが優れていると?」

「はい!」

「ほぉ、なるほど。例えば、俺がここまでに至る過程で誰かに敗北したとしよう。そして、その敗北した相手がサブロウだったとしたら――サブロウの敷く絶対王政となる。それでも、カノンは民主主義が絶対王政より優れていると?」

「――な!? ず、ずるいですぅ! その例えはずるいですぅ! そもそもシオンさんがあんな汚物に敗北する可能性は0ですぅ! 誰が何と言おうともあり得ない想定なのですぅ!」 


 ちなみに、サブロウはアレで特定の者に対して謎のカリスマを発揮する。同規模の状態で敵対していたなら、かなりの強敵になっていただろう。


「まぁ、そんなあり得ない想定の例え話は置いといて、人類側は絶対的なカリスマが誕生しない限りは……魔王側に勝つことは不可能だろう」

「つまり、それこそが人類側の弱点だから、今後もそこを突く戦略を立てればいいのですねぇ!」

「相談役に戦略を立てさせる予定は微塵もないけどな」

「――な!?」

「ってか、無駄話してないで……サクサクと経験値を稼ぐぞ」

「えー! 話を振ってきたのは……――! は、はい! わっかりましたぁ!」


 肩に乗せたの相談役話し相手と談笑しながら、俺は侵略してくる人類が迎撃し続けるのであった。



  ◆


 3時間後。


「今日もいい感じに稼げたな。そろそろヤタロウと交代するか」

「ですねぇ。私も疲れましたぁ」


 侵略の切れ目を狙って退こうとした、その時――


 〜♪


 スマートフォンから着信を告げる電子音が流れる。


「誰ですかぁ?」

「……ヤタロウだな」

「おぉ! さすがはヤタロウさん! タイミングバッチリですねぇ!」


 ん? ヤタロウは電話で催促するほど……稼ぎに熱心だったか?


 俺は違和感を覚えながらも、ヤタロウからの電話に出ると、


『シオン! 大変じゃ! すぐに帰還してくれ!』


 スマートフォンからヤタロウの狼狽した声が聞こえてくる。


「落ち着け。何があった?」

『幹部の中から被害者が……』

「は?」

『……レイラとフローラが消滅した』


 は?


 突然告げられたヤタロウからの悲報を理解できず、俺は困惑するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る