作戦の成果

 魔王ミユと協力関係を締結した翌日。


 予定通りに第三〇六〜三一〇の支配領域を譲渡。突然支配領域を追い出された人類は混乱したが、俺の配下を貸し出し、魔王ミユと一芝居打つことで、未だ俺の支配領域であると思わせることができた。


 魔王ミユには、支配領域と同時に人類による侵略も半分譲渡することに成功した。


「ヤタロウ、調子はどうだ?」

「シオンのお陰で、モグラ叩きの穴が10から5に減ったんじゃ。コレで泣き言を言うほど耄碌もうろくはしておらぬよ」

「余裕が出たら……」

「わかっておる。事前にピックアップした配下に経験値を稼がせろ……じゃろ? 育成プレイは得意じゃ。任せておれ」

「育成プレイって……お前……」

「ふぉっふぉっふぉ。来たるべき運命の日に備え、善行を……いや、魔王なら悪行か? 乱数の女神よ……儂を見守っていてくだされ……儂に祝福を……」


 うん、大丈夫そうだ。


 すっかりいつものガチャ狂いヤタロウだ。


 今回の作戦、成果は上々……。


 んー、これはかなり大きい借りになるな……。


 魔王ミユにナニかを求められた時、どこまで許容すべきなのか……?


 長い目で考えたら……こちらに譲渡される5つの支配領域を辞退すべきか?


 いや、こちらから下手に出過ぎるのも悪手だろうか……。


 魔王ミユと結んだ永続的な協力関係は――喉の奥に引っ掛かった魚の骨のように、俺に小さな苦悩を与え続けるのであった。



  ◆



 魔王ミユと協力関係を締結してから10日後。


 糸魚川市の集中砲火を浴びせた魔王の討伐に成功。肉体Aの魔王だったので眷属にしたかったが、説得には失敗した。


 防衛に関しては、ローテーションが上手く回っていることもあり、育成は順調。計画通りに、経験値を稼ぐことができていた。



 魔王ミユと協力関係を締結してから30日――魔王祭が開催されてから51日後。


 糸魚川市の生き残っていた魔王の討伐に成功。こちらの魔王は最後に投降を申し出てきたが、リナとコテツから『信用できない』、タカハルとサラから『キモっ! 生理的に無理』と進言があったので、リナの経験値とした。


 防衛に関しては、以前と違い支配領域を失う危険性は皆無であったが……常に闘争を繰り返し、全体的にレベルの高い――静岡の人類が強く、被害は想定以上となっていた。


 このことから、リナとコテツの部隊には妙高市への侵略を指示し、タカハル、ヒビキ、クロエの部隊を防衛のため帰還させた。


「おいおいおい! ボスの経験値は渡すわ、そのまま遠征を続けさせるわ……ちっとばかし、リナに贔屓が過ぎないか?」


 タカハルは帰還するや開口一番に不満を吐いた。


 戦闘狂タカハルからみれば、遠征侵略は褒美になるようだ。


「タカっち、やばば。あーしは疲れたからお風呂タイムみたいな。覗いたらブッコロね」


 対して、サラはダルそうに手で風を扇ぐ。


「御主人様、不肖ヒビキ只今帰参しました。あぁ……御主人様には隠しごとは出来ませぬ! 実は、御主人様の愛玩動物であるヒビキは粗相そそうをしました! どうぞ! お仕置きの鞭を! ……さぁ、さぁ!」

「……粗相ってなにをした?」

「今回は長期遠征。私は御主人様の言い付け通りにトイレシートを持参しましたが……」

「……もういい」

「いえ! 最後まで報告させて――」


 ――【ファイヤーランス】!


「ブヒィィイ! ありがとうございまぁぁああす!」


 侵略続きで異常をきたしたのだろうか? ヒビキはいつも以上の狂気っぷりを発揮した。


「にしし、あーしの言うとおりになったっしょ?」

「さすがはサラ嬢、助言ありがとうございました」


 我が配下ながら……こいつら、碌でもないな……。


「クッ……これだから、不純物どもめ……。クロエ=シオン、シオン様の命により只今帰還致しました」


 最後に、クロエを筆頭にレイラたち創造された眷属たちが片膝を付いて、深く頭を下げた。


「ご苦労。ゆっくり休んでくれ……と言いたいところだが、喜べタカハル。敵は無限にいるぞ」

「お? どういうことだ?」

「ちょ! あーしは!」

「不肖ヒビキ、常に御主人様の冷たい視線を受け、喜びに震えております!」


 タカハルは嬉しそうに拳を突き合わせ、サラは不満げな表情を浮かべ、ヒビキは身体を震わせていた。


「現在……我がアスター皇国は侵略を受け続けている」

「誰に?」

「人類だ。倒しても、倒しても、湧いて来る。一時期、落ちそうにすらなった」

「は? マジかよ」

「残念ながら、大マジだ」

「なら、呼び戻せよ!」

「だから、今呼び戻しただろ」

「っしゃ! んじゃ、ちと行ってくるか! どこよ? 俺はどこに向かえばいいんだ」


 タカハルは獰猛な笑みを浮かべ、俺へと指示を扇ぐ。


「とりあえず、今は休め」

「は?」

「敵は強い。万全を整えろ」

「余裕、余裕! えっと……なんて言うんだっけ? 常時バッチコイだったか? 俺は常に万全だ!」

「タカっち、バカすぎありえんてぃ。それを言うなら常在戦場っしょ」


 じょうしか合ってないのかよ……。


「ったく、お前だけが万全でも意味ないだろ?」


 俺はため息と吐く。


「いや、十分だろ」

「なら、タカハルは部隊長である意味はないな」

「は?」

「お! さんせー! さんせー! ありよりのあり! タカっち隊改めてサラ隊爆誕! ふっふっふ……上司の命令は……絶っっっ対! みたいな♪」

「みたいな……じゃねーよ!」

「部下の体調も管理出来ない奴におさを任せる意味はあると思うか?」


 ここでゴネたらアウトだ。タカハルにリーダーの素質はない。


「……チッ。わかった! わかったよ! タカハル隊は休養に入る」

「あいあいさー! って、サラ隊は!?」


 不貞腐れた様子のタカハルをからかうようにサラが楽しそうに笑う。


「というわけで、タカハル隊、ヒビキ隊、クロエ隊、侵略ご苦労だった。ゆっくり休め……と言いたいところだが、そんな悠長な暇はない。明日からの防衛に備えて、各自英気を養ってくれ」


 タカハルたち侵略メンバーは、休息すべく自室へと還っていくのであった。 

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